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O9








『空条さん、空条さん、』



三日目にしてもう当たり前みたいにこっちで目が覚めた。

時刻は6時50分。
承太郎の寝顔を5分ほど凝視してこの時間である。





「‥‥おはよう。」

『おはようございます。空条さん、腹減りました!』



すぐにむくりとベッドから身体を起こす承太郎。
その表情は渋くって、俺が寝た時にはなかった机の上の書類がその原因かなと頭を廻らす。

しかしよく怒らないねお前。俺こんな起こし方されたら少なからずキレるよ。





「少し寝過ぎたか…」

『仕事してたんですか、昨日。』

「ああ…顔を洗ってくる。」



はーいと承太郎の背中を見送って、ようやくドキドキしてきた!!うわぁ何て言おう!




どうやらこっちの世界は普通に時が進んでいるようだ。

承太郎に買ってもらった服や靴はちゃんとあったし、俺が昨日使ったホテルの歯ブラシも立ててあったし。実にヨロシイ。



『クゥー!』



布団とマットの隙間からズズズとベッドに侵入して、丁度真ん中に辿り着いたところで丸く踞る。

どうしようどうしよう。
あー布団中スゲェ承太郎の匂いがする。何でこんなイイ匂いすんだよクンカクンカ







「変態かテメーは。」

『お、キミからテメーに昇進。その調子で名前って呼んでください!』

「良いからベッドから降りろ。…あのバッグはどうしたんだ?」




『それは飯食ってから。
昨日寝ちゃったんで、今日はトントコ話します。』

「トコトン。」
『トントコ。』
「‥‥‥‥。」




朝食にありついている間も俺はキャッキャキャッキャと話し続けた。

痺れを切らした承太郎に飯くらい黙って食えねえのかと言われたが、
『一週間しか一緒に居られないんですよ!?一分一秒も惜しいんですッ!』
と俺は熱烈な殺し文句を吐き出して、彼は憂鬱な溜め息を吐き出した。勝ったぜ。








「昨日の虫を覚えてるか?」
『ちょ、食った直後にやめてくださいよリバースしますよマジで…!』

「そりゃあテメーの食い過ぎが原因だろ。名前、コイツが見えるな?」

『お!いま名前、…て、』





スタープラチナ。
三日前は見えなかったその姿が今はハッキリと見える。

俺はあの時見えなかった時点で自分は見えないモンだと思っていたから、本気で驚きすぎリバースをしかねない勢いで口をあんぐり開いた。
あおあはうえう。(顎が外れる)






「なんてェ面してんだ。コイツを見るのは初めてか?」

『そりゃあはい…高い高い、の…どうも。』

「落ち着け。
いいか、俺達はこれをスタンドと呼んでる。姿として見えるのはスタンド使いだけだ。この意味が解るな?」





『俺が、スタンド使い…』

「そうだ。だがテメーはまだ自分のスタンドも解ってねえ…何か心当たりはねえか?」





俺のカミングアウトの前に何てことをしてくれるんだ。



虫の件から始まったなら、あの虫もスタンドだったって事なんだろうか。

そう言われたら見覚えもなきにしもあらずだし、色合いもキモチワルイとかより毒素的な意味で不安を感じるべきな見た目だった。





でも、もしそうだとしたら、あれが原作の重ちーが操ってたスタンドだとしたら、こんな平穏な時が流れてるはずないんだ。

吉良影吉だってまだ死んでないはずだし、ジョセフもまだココにいるはずだし…ああ!頭ぐるぐるする!あの昆虫は何だ!







『今朝家に帰ったら、日付が変わってなかったんです。』

「家に帰ったのか?」

『信じらんないかもですけど俺、別の世界から来ました。寝て起きたら、空条さんの部屋にいました。』





頭がこんがらがって上手く言葉に出来ない。

けど状況を把握して俺を助けてくれるのはきっと彼だけで、彼に理解してもらわない事には俺は何にも出来ない。一人じゃ無力すぎる。






『寝て起きたら世界が切り替わってるんです。日が経ってないって気付いて、俺どうしたらいいか解んなくって…荷物纏めて、空条さんに頼りに来ました。』

「そりゃあヘビーだぜ…」

『部屋から出たんなら空条さんは気付くでしょ?!持ってきた荷物に免許証も』


「いやいい、信じる。」









『…バカなんですか?』

「どういう了見だ。」




だって馬鹿げてる。
スタンドがあるんだから異世界からトリップしてくるぐらい稀にあるだろって?あるわけねえええだろォ!!

いつからそんな銀河を夢見る宇宙少年みたいに純真になったんだよ承太郎。








『…っふえ、』



涙が止まらん。

そんな不意打ちな優しさ、反対。クソ、うんこ。





「馬鹿はテメーだ。」

『すい、ませッ…』




本格的にヤバい、涙が止まる気配がない。
こんなに泣いたの中学校の卒業式以来だぞッ!対処法が解らないし、この歳で泣きじゃくるとか恥ずかしすぎる!!

洗面所に逃げ込もう。
思い立って即座に椅子から離れそそくさと歩き出した。オ〜…イッツ情けな〜い…






『…!?』
「‥‥‥‥。」



この人本当に馬鹿なのか?いやそんなまさか。


俺は洗面所に向かったはずなんだけど、いま、承太郎の胸に寄り掛かってる。承太郎は俺の頭をぽんぽんしてる。

引っ張られた覚えもないからほぼ間違いなく、ザ・ワールドを使ったよな。こんなくっだらない俺の涙に、ザ・ワールドを使ったよな。







『っはは、』

「…笑うな。」


『じゃあ泣きます。』
「いや、泣くな。」
『クンカクンカ』

「…嗅ぐな。」





頭でゴシャゴシャ固まってたものが、やんわり解けてく。

まるで女みたいな慰められ方だけど、男同士だからこそこうまでしてくれる事が尚更嬉しい。



あーもうこの胸板。
カッコ良すぎんだよ承太郎!いっそ女になりたいくらいだよクソッ!!クンカクンカ!





『あーもうちょっと』

「嗅ぐなと言ったろうが。」

『ケチ!』
「やかましい。」




嗅覚からの好印象ってのは結構デカいもんで、それなりのブ男でもスゲーいい匂いしてたら「お、おや…」ってなっちゃうもんで。

すっかり承太郎の匂いの虜になりそうだ。一度でいいから5分ほどじっと嗅ぎ続けてみた…ハッ!!大丈夫か俺。






『ありがとーゴザイマス、承太郎さん。』

「礼は要らねえ。」




うんうん、無事丸く収まりましたな。承太郎がいれば100万人力ですな。

いやいい、信じる…(キリッ)
だぜ?!たまんねーよ兄貴!一生着いて…いや俺も人生あるんでこの異世界問題が解決するまで着いていきます!
(利用とかじゃないゾ★)









ところで俺のスタンド能力は結局のところなんのなのよ。




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