前川宗太という男。




あれから俺は生徒会室に向かった。


生徒会室の前まで来ると、何故か前川が床に座り込んでいる。
なんだついに気が狂ったかと思ったがどうやら違うらしく、ただ単に、生徒会室に自分のような一般人が入るのはどうなのかと俺を待っていたらしい。


····たしかに。
花ノ下のせいで感覚が狂っていたが、生徒会室は一般生徒立ち入り禁止で、本来なら立派な校則違反だ。こいつはなんら間違っちゃいない。


「どうぞ」


でもまあ別にバレなきゃいいだろ。つうか多分、バレてもなんも言われない。
それに、こいつに生徒会室荒らす度胸なんて無いだろうから入れても害はないだろう。


緊張して変な動きの多い前川を一瞥し、とりあえず理事長と何を話したかを聞いて、花ノ下との関係も聞いた。


───理事長はこの学園のクソみたいな状況を理解している。

それなのに、俺のリコール要請を聞き受けなかったのには大変腹が立ち申す。だが、この話のおかげで前川宗太という人間と俺はどうやら似ているということもよくわかった。


「とりあえず」


───相模に言われたからには、こいつを花ノ下から遠ざける必要がある。


そのことを伝えようと口を開けた刹那。生徒会室の外から、聞き慣れたくなくても聞き慣れてしまった足音が聞こえてきた。


一瞬で花ノ下だと察して、前川を咄嗟に隠す。奴は当たり前のようにドアを半壊させ、生徒会役員共を引き連れて中に入ってきた。
役員共の顔は全員青ざめていて俺に対する罪悪感が見えたが、正直そんなもんどうでもいい。

とりあえず今はさっさと出ていってほしいので、一番煽りやすい副会長に向けて凄む。すると案の定顔を真っ赤にして花ノ下と共に出ていってくれた。

うむ、優秀優秀。ずっとそうしてろ。でも散らかして言ったものは片付けろ、頼むから。


「おいお前、ちょっと片付け手伝え」
「え!いや、俺片付けとか出来ませんけど」
「いいから黙ってそのプリントまとめろ」


ぼーっと突っ立ってる前川に声をかけ、部屋の片付けを手伝わせる。

前川は言った通り片付けがめちゃんこ下手くそだった。が、とりあえずどうにかしようと頑張ってるのが見て取れて、まぁ、悪い気はしなかった。


片付けが終わると、前川はスマホを見てぎょっとした顔をした後、そろそろ帰ると言いきりだした。正直まだ聞きたいことはあったが、俺ももう早く帰って寝たかったので次の機会に持ち越すことにした。


「····今日は色々とすまなかった。同じ境遇…とまではいかないかもしれねえが、似たもの同士、強く生きるとしよう」



出来れば、あの花ノ下を始末してくれれば尚良しなんだが。生憎こいつはそんなこと出来るタマじゃないので期待はしない。

俺の言葉を聞いて苦笑いを浮かべたあいつは、頬を指で掻きながら言葉を紡ぐ。


「は、はは····。···えっと、会長も頑張ってください。あ、無理しない程度に!」



────氷水をかけられたような、そんな感覚。



頑張ってくださいなんて言われ慣れた言葉だったはずなのに、そう言えば久しぶりに言われたような気がして胸のあたりがむず痒い。



(──俺も大概だな)



前川にそう言われたことが嬉しいと感じる自分がなんだかおかしくて、不覚にも少し笑ってしまった。






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