生徒会長 IV



前川宗太は、花ノ下来襲により荒れる学園に現れたもう1人の転入生である。


花ノ下のせいで『転入生』にあまりいい感情を持ってはいなかったが、会ってみるとどうやら問題を起こすような感じではなさそうだった。

まあ何てったってこの学園で希少価値のノンケだ。害はないだろう。


「···──あ?」


そんなことを考えながら生徒会室を片付けていると、乱雑に重なる白い海の中に一つだけ淡い青色の紙を見つける。
なんだこれ、と思いながらそのプリントを拾い上げ見るとそこには“生徒会役員リコール”の文字。


「···リコールか」


確かに今の生徒会役員を見ているとそれが最善のようにも思えてくる。
俺がどれだけ天才でかっこよくても、やはり役員の損失は大きく、校内はパンク寸前になっている。


「あー···あとでオッサンとこ行くか」


頭の中で、ふざけたシャツを着てふざけたサングラスをかけたオッサンが自分の名前を呼ぶ様子を想像していよいよ全てが憂鬱になってきた。もう実家帰りたい。帰って愛犬のチャイコフスキー次郎2世に癒されたい。



───コン、ココン、コン

生徒会室に控えめで、なんとなく特徴的な、そんなノックの音が響いた。


「──ああ、入ってくれ」
「···失礼します」


そう言って控えめなノックに似合う控えめな声で返事をした相手は、控えめとは程遠い髪色をひょっこり覗かせた。


「相模、どうした?」
「···一応、誤っておこうと思って」


俺の顔を申し訳なさそうに見るこの男、相模牙介は赤い髪に鋭い目の所謂ヤンキー。喧嘩っ早く、何人もの不良を病院送りにした···とか。なんとか。

しかし、それはどうも違うようで、しかも花ノ下についてまわる理由も別にアイツが好きだからというわけじゃないらしく····
だから俺はコイツに『花ノ下がいらねぇことしそうになったら随一連絡してくれ』と頼んだ。いわゆるウィンウィンのお友達なのである。


「あー、呼び出しのことか?」
「ああ。····その、上手くできなくてすまない」


眉を八の字にして謝る相模は大型のくせにチワワっぽい。項垂れてる耳と尻尾が見える気がする。やばい今めっちゃなでたい。


「大丈夫だ、特に大きいことをやらかしたわけでもねーしな」


そう言って笑ってやると、相模は嬉しそうに頬を綻ばせた。
····うわーこれあれだ、マイナスイオン出てるわ。絶対出てる。超癒される。ハンパねえ。最高のヤンキー萌えコンテンツじゃねえか····


「───あと、アイツ、転入生のことで」
「ん?ああ、前川宗太か?」


相模は「うん。多分、そいつ」と言ってまた悲しそうに顔を歪ませた。


「花ノ下が、そいつの事気に入ってるらしくて···その、」
「···ん、分かった。前川宗太は俺の方からも気をかけておく」


今度こそ相模の頭に項垂れた耳が見える。やめろ、そんな悲しそうな顔をするな。塵ほどしかない俺の加護欲が煽られる。

──そんなこんなで断る理由も無く俺は前川の監視を受け入れることに。そのことにほっとした相模はまた嬉しそうに笑った。


「ありがとう」
「おう、またな」


体に似合わず小さな動きでいそいそと生徒会室を出ていく相模の後ろ姿を眺める。
うん、やっぱこいつヒーラーだわ。瀕死だったHPがちょっと回復した。


「あ、そういや相模。お前の方はどうなんだ?」


生徒会室の扉を開き、出て行こうとした相模の背中に声をかける。


「····俺、の方?」
「ほら、" "とは、上手く行きそうなのか?」


びくん、と相模の肩が跳ねる。


「───···俺は、お前に無理して欲しくはねえんだよ。相模」


俺の言葉に相模は、ゆっくりとこちらを振り向いて···───そしてまた、ゆっくりと笑った。
俺が何も言わずに相模を見つめると、相模は「ごめん。じゃあまた」と言い残し、静かに扉を閉めた。


「····はあー」


どうも俺は、最近アイツを弟のように扱いすぎてるのかもしれん。とにかく。今は前川のことも、相模のことも。様子を見るしかないだろう。



「····ていうか、俺は今から地獄に出向かねぇと行けねぇんだよなあ」


この後行かなくてはならない場所を思い浮かべ、相模のお陰で折角回復したHPも一瞬でなくなるだろうな、と独りごちる。


「とりあえず、行くか」






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