イカロスの翼 | ナノ

忘却の彼方


ウェルが談話室に戻るとエマの姿はなく、グッタリとしたドラコのみの姿があった。

「あれはどうした?」
「途中から歯止めが効かなくなってウェルを探しに行くって談話室を飛び出して行ったんだ」

ドラコの言葉にウェルの頭を不安が過る、けれどエマは自分が図書室に行ったなんて思わないだろう。

「途中で会わなかったみたいだな、どこにいたんだ?」
「…医務室で寝てた」
「大正解だな、婚約者様は図書室に向かったみたいだから会わなくて済んだんだ」

ドラコの言葉を聞いて、ウェルは大広間へと駆け出した。
それを追うようにドラコも後を追う。
何か焦ったような表情をしたウェルにドラコも何かがおかしいと思ったのだろう。

大広間に入ればそこは修羅場といってもいいほどに女特有のカナギリ声が響き、食器が割れる音が聞こえてきた。

「なんで!あんたなんか!」
「おい!やめろよ!ハーマイオニーを離せ!」

エマがハーマイオニーの髪を掴んでるのを見た瞬間、彼の中で何かが壊れる音がした。

彼女との関係がバレた。

そして机に押し付けられていた彼女と目があうと一瞬瞳が揺れ、すぐにエマの手を掴む。

「…何してる」
「この、この女さえいなければっ」

相当泣き喚いたのかエマの顔は涙でぐしゃぐしゃで、止めに入ったロンやハリーの顔には引っ掻き傷が残っていた。

「…どういうことだ…」

後ろにいたドラコの声が大広間に響いた。
それに反応するようにエマが大きな声で叫ぶ。

「この、グレンジャーが、私の婚約者を盗ったのよ!私見たんだからっ、二人で図書室でっ」
「さっきから何言ってるんだよ!ハーマイオニーがそんなことするはずないだろ!」

エマの言葉にロンが突っ掛かり、ハーマイオニーは抵抗もせずエマに叩かれた。

「恥知らずっ!」
「やめろ!」

ハーマイオニーを叩いたのを見た瞬間、思わず手が出て彼はエマを打つ形になった。

叩かれたエマもそれを見た人間も唖然とウェルを見た。

普段冷静沈着で、あんなに物事を荒立てるのが嫌いなウェルが、という思いが全員の気持ちだった。

そして嘘だと思っていた気持ちが確信に変わる。

「どういうことだウェル、説明しろ…グレンジャーと何があった」

ハリーとロンは嘘だと言ってよとハーマイオニーに問いかけるが彼女は何も言わずに俯く。

あぁ、ついに終わりか。

彼は決断したのかエマの手をとって腕の中に抱き締めた。

「…これ以上恥を晒すなと言ってるんだ。俺の婚約者が騒いではみっともないだろ」
「で、でも…ぐ、グレンジャー、が」

嗚咽をもらすエマの頭を撫でてウェルははぁっと溜息を吐いた。

「こいつとは何でもない、図書室で休憩してたらたまたま同じ席に座ってきただけだ」

その言葉に、エマはごめんなさいと泣いてウェルの胸に顔を押し付けるが、ドラコやハリーとロンはその言葉じゃ満足しなかった。

「本当にそれだけか?なにか誤魔化してないか…?」
「…ドラコ、お前何を疑ってる」
「この前から引っかかってたんだ、ウェル。何でこの前グレンジャーの羽根ペンを壊さなかった?加減をしただろ?」

その言葉にハーマイオニーの肩が震えた、それを見てウェルは彼女を抱き締めたくなった。

何もかも放り捨てて、彼女だけを連れてマグルの世界で一緒に暮らしたかった。

けれど、自分は

「穢れた血の持ち物なんかに触りたくないだろ…、それぐらい察しろ」

冷たい、凍てつく瞳がハーマイオニーを侮蔑する。
一瞬交差した視線に、銀色の瞳は揺れてそのままエマを連れて大広間から出て行く。

「待てよ!ハーマイオニーに謝れ!この!くそスリザリン!」

ロンの言葉に振り向くと、彼女の隣にロンがいて、肩に手が置かれていた。

ギリッと下唇を噛みたくなるが、必死に抑えて馬鹿にするように笑うとそのまま無視して歩く。


泣いてるキミを抱き締められるのも、涙を拭うのも、慰めるのも、僕にはできないから。

だから、これでいい。


忘却の彼方
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