キミがいとしい
部屋に戻ったウェルはそのままベットに倒れ込み、宙を眺める。
これでいい。
もしもあそこで彼女を選んだら、ウィーズリーやポッターは彼女を裏切り者だと思うだろう。
グリフィンドールは彼女の居場所だ。
それを奪っていいはずがない。
二人で逃げたとしても、マグル界では地位も名誉もない自分がどう彼女を幸せにできる?
きっと彼女はそれでもウェルがいれば幸せよと微笑むだろう。
だけど、
俺は彼女に魔女になってほしい。
あれほど才能を持った魔女は滅多にいない。
それにもし逃げたら今まで彼女がしてきた努力を俺が壊してしまう。
これでいいんだ。
グリフィンドールとスリザリン。
マグル生まれと純血主義家生まれ。
どう足掻いたって俺達に未来はなかったんだ。
未練を断ち切ろう、忘れよう、なかったことにしよう。
そう自分に言い聞かせて起き上がる。
かさりとローブのポケットから音がした。手を入れると彼女から貰ったプレゼントが入っていた。
パープルの箱を開けると中には輝く銀色の万年筆が入っていた。
それは魔法がかけられているのかキラキラとしていて、とても美しいと思った。
箱の底にはメッセージカードも入っていて、ウェルは読むか読まないか迷ったが彼女の最後の言葉を、捨てる気にはなれなかった。
白い紙にはピンクの文字で可愛らしく綴られていた。
目に飛び込んできた『I LOVE YOU』に思わず自虐的な笑いが溢れた。
愛しげにその文字をなぞって続きの文を読んでいく。
『Merry Christmas.
ウェルを想って選びました。今度は一緒にマグルの世界に買いに行けたら嬉しいなんて思いました。ウェル、貴方に会えて、貴方を愛せて私は幸せです。これからもずっと、側にいたいと思ってしまうくらい、貴方を愛しています。
ハーマイオニー・グレンジャー』
ウェルの瞳からはボロボロと涙が溢れ、グッと腕を噛んで嗚咽を耐える、彼はメッセージカードを握り締めて声を出さずに泣き続けた。
悲しくて、苦しくて、心が壊れてしまうんじゃないかと思うほどに痛い。
彼女の笑顔が脳裏から離れない。
銀色の万年筆を愛しそうに握り締め、彼女を想う。
さよなら、傷付けることしかできなかった愛しい人
もう自分はこんなにも人を愛すことはないだろう。
永遠に、キミを
*
あれからエマとウェルは結局破談になったらしく、ホグワーツ中で噂になったがウェルが卒業するまで彼とハーマイオニーは目も合わせることもなく、口も一切きかなかった。
互いに図書室には行くが、絶対に会うことはなく、皆彼と彼女は本当何もなく、ハーマイオニーが理不尽な被害にあったとウェルに怒りを燃やした。
*
彼と彼女の愛は消えたが、そこには確かに思い出として彼と彼女の中に残り続けるのだった。
いつもの時間、いつもの席に座ってハーマイオニーは一人でレポートを書いた。
太陽の光はキラキラとハーマイオニーのネックレスを照らし、少し曲がった羽根ペンを彼女はとても愛しそうに撫で、一筋の涙が彼女の頬を流れるのであった。
キミがいとしい
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