イカロスの翼 | ナノ

どこまでも堕ちて


「ねぇウェル、待って」

婚約した日から婚約者のエマ・グリッドは彼の後をずっとついて歩く。
もともとエマは彼に好意を抱いていたのだが全て無視され、コネを使ってやっと婚約者という形で彼の隣に立てたので彼女は浮かれていた。

けれど浮かれているのも束の間で、彼が自分に気持ちがないことを知ると疑い始め、やがて女の感が彼が他の女を愛していると見破り、エマの愛は嫉妬に変わった。


ドラコはいつもウェルと行動し、兄のようのに彼を慕っていたためエマを邪魔に思っていたが彼女の家のことがあるため邪険にはできなく苛立つ日々を送っていた。

「ウェル、あの女をどうにかしてくれ」
「知らない。親が勝手に決めた婚約者だ。興味もない」

そう言い捨てた彼にドラコは驚いて目を見開く。
氷の貴公子と呼ばれることもあるがドラコは彼が本当は優しいことを知っていた。

そんなところがあるから自分は彼に懐いているし、慕っている。
だからこそ女性に対しても紳士的なはずな彼がこんな冷たく言い捨てたことに違和感を得た。

「もう限界だ、ドラコ。しばらく頼む」
「またか…僕じゃ持って二時間だぞ」
「それでいい、少し寝てくる」

そう言い放つと彼はエマを呼びつけドラコの隣に座らせた。
ウェルはたびたび我慢の限界になるとエマをドラコに任せて図書室へ逃げた。

図書室に行けば彼女に会える。
少しでいい、少しでも彼女に会えばウェルは幸せだった。

*

「ウェル、あのね…」

図書室に着くとハーマイオニーの様子がいつもと違い、俯いて自分と目を合わせようとせず、何か言い出そうとおずおずと気まずい空気がずっと流れていた。


ウェルは心臓が煩く騒ぐのと同時に血の気が引くのを感じた、もしかして別れを切り出されるのではないか、この関係に彼女が疲れたのではないか。

そんな思考回路が彼を襲い、元々白い肌は血の気を失って青白くなっていた。

「っ、ウェル、顔色が悪いわ」
「大丈夫だよ、だから…キミが言いたいこと言って大丈夫…」
「で、でも…医務室に行った方がいいんじゃ…」
「キミといる時間を減らしたくないんだ」

やっと目があったとばかりに彼はハーマイオニーの瞳をじっと見つめ、彼女の言葉を待った。

「…なら、言うわね…あのね、これ少し早いけれど…」
「…?これ、は?」

受け取った小さい箱を見て首を傾げる彼に彼女は恥ずかしそうにクリスマスプレゼントと伝えた。

それを聞いて安心したのかウェルはその場に崩れ落ち、彼女は慌てて駆け寄る。

「どうしたのっやっぱり具合悪いの…?」
「違う、よ…よかった…、キミに愛想を尽かされたかと思った…」
「そんな訳ないじゃない、だって私…」

好きだと告げる前に彼女の唇は彼と重なった。
普段は人目を恐れて人払いの呪文をかけてからするが、今日の彼にそんな余裕などなかった。


まるでイカロスの翼のように。
太陽に、幸せに近すぎた僕らは、きっと

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