僕はイヴを自分の部屋へ招いた。

元々部屋に招く約束はしていたし、父上が上手くやってくれているおかげで僕一人消えたところで誰も気が付かない。

もちろん、招かれない彼女が消えたところでも同じだ。

キンキンに冷えたシャンパンをコップに注ぐ、金色がキラキラととても美しかった。

そして僕は迷うことなく棚から小瓶を出してポトリと一滴彼女のグラスに入れる。


これは劇薬という名の愛だ。


僕の愛を彼女が受け止められるかどうか、試すだけ。


紫に光るそれはみるみるうちに金色に溶けて混ざった。


無味無臭、無色透明。


こんなにも美しい液体が量を間違えれば人を殺せてしまうんだ。

油断をするとスルリと喉元を切られてしまう。


何だか少しイヴを連想させた。


コンコンと遠慮がちなノックが聞こえる、あぁ。


「どうぞ」


ゆっくりと扉が開き彼女が遠慮がちに入ってくる、クスっと思わず笑みが溢れて誤魔化すように「座るといい」と椅子を目で教えた。


部屋にはテーブルと椅子二つ、そしてベッド。

物はほとんど置かないのが僕の趣味だ。

話をするには少し寂しいかもしれないが別に今日はそんな雰囲気でもない。


「…あの」


「キミは知ってたのか…?」


僕が問えば彼女は瞳を揺らして小さく傾いた。


あぁ、知っていたのか。

ならあの視線は兄を見る妹の視線…?


でも


「僕は今日初めて知った」


彼女は申し訳なさそうに下を向き、ギュッとドレスを握り締める。


「あぁ、責める気はないんだ…。そうだ、あんな所じゃ気軽に飲み物も飲めないだろ?一緒に飲もうと思って」


よく冷えたグラス、よく冷えたシャンパン、そしてよく冷えた劇薬を彼女に渡す。


「ありがとう…」

彼女は泣きそうな顔ではにかむとその真っ赤な唇をグラスにつけて劇薬を流し込む。


疑うこともしない純粋無垢な女の子。

美しく聡明でみんなが羨む監督生。

魅力的で繊細で誰もが哀れむ僕の妹。


ガシャンと割れる音と共に彼女が床に倒れこむ。


彼女は僕の愛を受け止められなかったらしい。


床に広がる破片で頬を切ってしまったのか白い頬には赤が流れていた。


そっと彼女を抱えて頬にキスを落とす。


この血さえ流れてなければ僕は。


あの割れた音と共にきっと僕の何かも割れたのだろう。

もう後には引けない。




止まらない運命
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