あれから毎日のようにあの人は私の所に訪れる。

会う度に僕の名前を言って見ろってうるさい。

でも、私の世界にこんなに強引に入って来たのは彼が初めてだ。


私は彼を蜂蜜王子と呼ぶことにした。



「ハニー、早くしないと朝食逃しちゃうわよ」

「んー、」

「あ!またお菓子食べて!」

「ねぇ、あのね、蜂蜜って、」

「はいはい、ハニーの大好物よね」


言いたい事はそれじゃなかったのに、友人は私の支度準備を急かせた。


何で皆蜂蜜の話、聞いてくれないのかな。


とってもとっても素敵なのに。


「おい、」

私が湖の畔でボーッと蜂蜜の事を考えていると聞き慣れた声が後ろから聞こえた。


「あ、…蜂蜜王子」

「誰だソレは。僕の名前はドラコ・マルフォイだ。いったいいつになったら覚えるんだ?」



蜂蜜王子は不満げな声を出しながら私の隣に腰をおろした。



「……蜂蜜は、特別なのよ」

「特別、だと…?」

「王子だって蜂蜜なんかに興味ないんでしよ」

「…話してみろ」



意外な反応に少しビックリしたけど、私はゆっくりと話した。


ママとパパの蜂蜜色の恋の話。

私が蜂蜜色の訳

私がお菓子と蜂蜜好きの訳


今まで誰にも話さなかった事を

誰も聞いてくれなかった事を

私は全部、蜂蜜王子に話した。



「そうか、なら蜂蜜王子と呼ばれるのは光栄だな」


私は初めて蜂蜜王子の顔を見た。
アイスブルーの瞳に、プラチナブロンド。



ママと同じ髪の色。



「お、おい、どうした」

蜂蜜王子が焦ったような表情で私を見つめる。


頬を触れば、涙が流れていた。


「どこか痛いのか」

「ううん、…たぶん嬉しいの」


私の話を聞いてくれて
私の世界に入って来てくれ


「ありがとう、ドラコ」


私は初めて涙を流した。


するとドラコの顔が近づいてきて、ペロリと私の涙を舐めた。

「しょっぱいな」

私の涙もしょっぱいんだって思った。


塩辛いのは、きらい
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