抉れるように



クレオは久し振りに訪れたアジトにマッタリとしていた。

彼女にとっては第二の故郷のようなモノである。


「お前が来るってわかってたならウボォー達も呼んだのによ、あいつらも会いたがってたぜ?」

「ノブ兄とウボォー兄もいないの?パク姉もいないし…」

しょんぼりと眉を下げるクレオにマチがコッソリと耳元で囁いた。

「フェイなら地下の拷問部屋にいるよ」

その言葉にクレオはほんのりと頬を赤く染め、笑顔でマチにお礼を言った。


「私!フェイにも顔見せてくるね!」

クレオはパタパタと地下にある拷問部屋に走っていった。



*


ーコンコン


「ー…誰か」


誰かを拷問していたのだろう。
楽しみの邪魔され、不機嫌そうな声が聞こえる。


「…フェイ、私」


すると、ゆっくり扉が開かれた。



「なんね…お前だたか、クレオ…」


先程の冷たい声とは打って変わり懐かしむようにフェイタンは少女を部屋に入れた。


暗く、血生臭い部屋。
壁には乾いた血がこびりつき、床のあちこちには先程まで生きてたであろう肉塊が転がっていた。


「相変わらずだね、フェイ」


そんな物騒な部屋に表情一つ変える事なく少女はへらりッと笑った。


「お前は随分変わたな」


フェイタンの鋭い瞳がクレオを見つめる。

ドクンッと心臓が跳ね上がり、顔が紅潮するのが自分でもわかる。

あの瞳に自分は弱いのだ。

クレオは顔の赤みを誤魔化すように話し出す。


「三年あれば誰でも変わるよ」


ふいにフェイタンがクレオの長い髪を掴んだ。


「…女らしくなたね、男でも出来たか?」


ニヤリと意地悪な笑みを浮かべるフェイタンにクレオはムッとした表情をうかべた。


「そんなの、出来る訳ないじゃん。いらないし」

クレオは拗ねたようにフイッと横を向いた。


男なんて出来る訳がない。


私が、

私が好きなのはフェイタンだけなのだから。


いつからだろう。
彼を異性として意識したのは。

いつからだろう。
彼に恋をしていたのは。


何てことはない。

最初から。

初めから私はフェイタンに恋をしていた。


フェイタンの無慈悲で残酷に拷問する姿に惹かれた。

真っ黒な彼が真っ赤に染まるのを美しいと思った。

彼が誰かを拷問している姿が好きだった。

彼が誰かを殺している姿が好きだった。

まるで、子供が新しい玩具を手に入れたように彼は楽しそうに人を肉塊に変えるのだ。


あの切れ長の鋭く冷たい瞳が好きだ。

その瞳に写されれば、
私は呼吸をも忘れてしまう。


フェイタンへの想いを確信してから私はフェイ兄と呼ぶのをやめた。


彼が私に優しくしてくれるのは私がお兄ちゃんの妹だから。

それが嫌だった。

フィンクスの妹だからという扱いが嫌だった。

一人の女として見られないのが辛かった。

だから私は逃げ出した。

クロロから旅団に勧誘されても断った。私が蜘蛛に入ればフェイタンは私を蜘蛛の仲間として扱うだろう。それは私が求める関係ではない。
私はフェイタンに女として求められたい。


「ハハ、冗談ね。やぱお前まだまだ餓鬼よ」

「餓鬼じゃないもん」


ムゥッと頬を膨らますクレオに、フェイタンはニヤリと笑って頬を撫でた。


「まだまだ発展途中ね、中身も身体も」


そしてフェイタンはクレオの首筋に顔を埋めた。

「”女”の香り、またくしてないね。まだまだ青い証拠よ」

クレオはフェイタンの行動に驚いてバッと離れた。

「ッ…な、…フェイ!」

真っ赤に染まるクレオを見てフェイタンは満足げに笑う。


「ほら、いい顔になたよ。女の顔ね、」

「〜〜〜ッ!」


真っ赤になるクレオを引き寄せてフェイタンは耳元で囁いた。


「しばらくワタシにも顔見せなかた罰よ、お前は黙てワタシの側にいればいいね」

フェイタンはズルい。

フェイタンの言葉は私を縛り付ける。


私がフェイタンに好きと言えば彼はどんな反応をするのだろうか。


女として求められなくても、


フェイタンの道具として

フェイタンの玩具として

フェイタンの所有物として側にいたい。

私はフェイタンにゾッコンなのだ。


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