とっておきのクリスマス 2/2



 通りは刻阪の言った通り、誰もおらず静かだった。
 煌めく明かりに言葉を忘れ、ふっと振り向くと刻阪が微笑む。
 その藍色の瞳に明かりが映っているのが見えて、それも綺麗だな、と神峰は思う。

(ホントに、顔だってカッコいいし反則だろっ)

「綺麗だよな」
 神峰が密かに思ったことも知らず、刻阪は何気なくそんなことを言う。
「…おう」
「僕もね、改めてこんなに眺めたことないから新鮮だよ」
「そうなんか?」
「うん。…あっそうだ、この先公園あるからちょっと休んでかないか?」
「あ、ああ、いいけど」


 二人は住宅街の合間にある公園に入った。イルミネーションで彩られた街の中で、ここはひっそりと暗い。
 奥まった場所のベンチに刻阪がさっさと座り、繋いでいた手がすっと離される。
(あ…)
「さてと、渡す物があるんだけど」
 といって、刻阪はなにやらごそごそ荷物を探したかと思うと、包みを取り出して神峰に渡した。

「はい、メリークリスマス」

「えっ…!」
 ぽん、と渡されたそれに、神峰は慌てた。
「ちょ、貰っていいのか…!?」
「当たり前だろ、そこ疑うなよ」
 苦笑気味に刻阪が言うが、本当に神峰が焦ったのはそこではなく。
「だ、だってオレ、なんも用意してねェから…!」

 クリスマスにはプレゼントを交換するものだ、という事が、神峰の頭からすっぽり抜け落ちていたせいだった。

「なんだそんな事か。僕があげたかっただけだから気にするなよ」
「え、でも…綺麗なトコ見せて貰っただけでも良かったのに、プレゼントまで貰ったのになんもしねェのも…」
 と神峰が食い下がると、刻阪はふむ、と考えて。


「じゃ、神峰からキスしてよ」


 これまたさらっととんでもない事を言ってきた。

「……マジで?」
「マジで」
 きっぱり答えた刻阪は、顔も「心」も大真面目である。
 そう言われては、とても神峰が断れるわけはなく。
 あーだとかうーだとか、たっぷり数分逡巡した後に、ついに覚悟を決めた。

「じゃあ、いくぞ…目ェ閉じててくれよ頼むから」
「はいはい」

 素直に刻阪は目を閉じた。
 神峰は深呼吸をひとつして、でもガチガチに緊張しながら顔を近づける。
 眼前に迫る整った顔とか、期待に顔(?)を輝かせる「心」のことは極力意識しないように心掛け。


 ふに、と一瞬だけ唇を重ねた。


「〜〜っはぁあ緊張した!!」
 本当に一瞬だけなのに、ドキドキが収まらずすーはーと呼吸を繰り返す。
「ありがと、神峰」
 そんな神峰に、刻阪は本当に嬉しそうに笑った。「心」も、今にもサックスを吹き始めるんじゃないかというくらいの上機嫌だ。

「メ、メリークリスマス?」
「うん。いいクリスマスになったと思うよ」
 にこにこ嬉しそうな刻阪に、つられて神峰も笑う。
「…オレも、いいクリスマスだった」
「そう、良かった。だったら大成功だ」
「ああ、サンキューな刻阪!」

 神峰は心からお礼を言った。
 だって、家族以外と過ごすクリスマスも初めてなら、こんなに幸せな気持ちになれたクリスマスも初めてなのだから。
 そんな思い出をくれた刻阪には、感謝してもしきれない。


「あ、でもやっぱプレゼントの礼は今度ちゃんとする!」
「そう?じゃ、楽しみにしてるよ」

 そして、遠いイルミネーションに微かに照らされた刻阪の笑顔が、やっぱり綺麗だなぁと神峰は思ったのだった。





end.


+ + + + +

お家の庭の明かりって、綺麗なところは本当に綺麗ですよね。
神峰の好きな甘いもの(ケーキ)で祝うべきだったと、書き終わった後で気づきました(´・ω・)
メリークリスマス!

Up Date→'13/12/23

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