去る年がくれた贈り物 2/2
どうにか通話ボタンを押して、電話に出る。
「も、もしもし…?」
『あ、もしもし。神峰?』
確かに、刻阪の声が聞こえた。それだけで、心臓がおっそろしくドキドキする。
『悪いな、こんな遅い時間に電話して』
「ンなコトねぇよ、どうしたんだ?」
『…神峰、いっぱいメール来ただろ?」
聞いてんのはこっちなのに、刻阪は質問で返してきた。
ああ、と頷くと、また質問。
『電話は?』
「…来てねェよ?刻阪が初めてだ」
『そっか。…良かった』
返ってきた声があからさまに嬉しそうで、ちょっとビックリした。
でも、次に来た真っ直ぐすぎる発言には、もっとビックリした。
『神峰に、一番最初に直接あけましておめでとう、って言いたかったからさ』
「………」
…っ、ちょっと、オレ、ヤバいかも…。
前からすこーし自覚あったけど、それにしたって、うん、
『神峰?どうした?』
一転して、心配そうな刻阪の声が届く。
違う、そうじゃねェんだ、お前が心配することなんて何もねェんだよ。ただ。
「嬉しい、だけだから…」
そう、嬉しいからだ。ああもうなんで泣くんだよオレ、ちょっと気持ち悪りィだろ刻阪が。なんでこんな涙もろく生まれちまったのかなぁ。
『そっか』
でも、電話口から返ってくる刻阪の声は優しい。こんなんで泣いちまうオレでも受け入れてくれるんだよな、コイツは。
『うん、あけましておめでとう。神峰』
「あけまして、おめでとう…」
他の人から貰ったメールよりも一番、刻阪のその一言が嬉しかった。
やっぱり、特別だからかな。オレが去年一番世話になったヤツだから。
『あ、そういえば神峰、コンサート見た?というか見てる?』
「おう!めちゃくちゃ良かった! あ、今映ったあの人スゲェよな、よく馬のお面被ったまんまで演奏できるよなー」
それからひとしきり、年越しコンサートの話になった。
刻阪と一緒にコンサートにあれこれ感想言うのは楽しくて、そしてそうしながら演奏聞くのも楽しくて。
「…オレさ、こんなに音楽好きになるなんて思わなかった」
『どうしたんだ、突然』
唐突に話題を変えたオレに、刻阪がちょっと笑う。
でも、…言いたいから、言ってみようかな。多分、刻阪なら聞いてくれると思うし。
オレをここまで連れて来てくれた、大事な、相棒だから。
「ちょっと、お前にお礼言いたくてさ」
『神峰…?』
「あけおめメールだって、こんな貰ったの人生で初めてなんだ。それって、全部お前のおかげなんだぜ?」
刻阪と出逢わなければ、散々苦しめられた「目」に意味を見出せなかった。
刻阪が指揮者になれって言ってくれなかったら、音楽にハマる事もなかった。
そして、刻阪がずっと一緒にいてくれたから、怖くても色んな人と関わる事が出来たんだ。こんなにあけおめメールが貰えたのは、きっとその証拠。
2013年は、オレにとってほんとに大事な年だった。
そのきっかけをくれたのは、全部お前なんだよ、刻阪。
「だからオレ、刻阪に会えて本当に良かったって思ってる。だから、…去年は本当にありがとな」
これで全部、伝えた。…ちゃんと伝わったかな、オレ喋るの下手だし…。
『……』
刻阪が黙り込む。ああ、イヤだなこの、反応待ってる時間。すっげードキドキする。
と思ってたら。
『…僕だって、そうなんだからな』
しばらくの沈黙の後、刻阪も話し始めた。
『お前がいなきゃ、僕はサックス辞めてたし、モコだって声が戻らなかったかもしれない。こんなに毎日楽しく部活やってることだって、なかったと思う。本当に、神峰に会えてよかったなって思ってるんだ』
「…そうなんだ」
返ってきた言葉に、ホッとすると同時にやっぱり嬉しくなる。
同じように思ってくれてたんだな…お前も、オレに会えてよかったって。
『…それにね、こんなに大事にしたいなって思うヤツも、初めてなんだよ』
「…え?」
囁くように言われた言葉には、ちょっと反応が遅れた。いま、何て…?
けれど、刻阪はそれには答えなかった。
『なんでもない。それより、僕は今年が楽しみでしょうがないんだ』
「あ、ああ…うん、それはオレも」
うん、楽しみだよ。だってこれから全国へ行くんだもんな。
そうやって、年明けてこれからが楽しみって気持ちになるのも、初めてだ。
それも、刻阪のおかげだな。
『絶対、全国行こうな。それで、僕らの音を聴いてくれるみんなに、届けるんだ』
「…そうだな、全国で金賞取ろうな!」
うん、とまるで誓うように、オレたちは電話越しに頷き合う。
きっとこうやって、2014年が始まっていくんだな。
あ、そうだ。いいこと思い付いた。
「そうだ刻阪、明日…ってか今日か、朝になったら初詣行かねェ?全国大会金賞の祈願しようぜ」
『あ、いいねソレ』
刻阪もノってくれた。やった、これで朝が楽しみになった。
今年一番最初に会えるのも、刻阪なんだな…なんか、嬉しい。
ってあれ、オレ何考えてんだろ?
『それじゃ、そろそろ切るね』
「おう!また明日!」
『うん。…神峰、今年もよろしくな』
「ああ、よろしく!」
そうして、2014年最初の電話は切れた。うん、やっぱオレ、幸せだ。
テレビを見ると、もうコンサートは終わっていたから、そのまま消した。これ、良かったな。次の年越しも見ようっと。
「…あー、そういや返信、しなきゃ…」
通話画面の閉じたケータイの画面に、またいくつか新しい通知が光っている。けれど、今はもうちょっと、電話の余韻に浸っていたい、かな。
朝になったら返信するんで、待っててください、先輩方。
にしても、なんでオレ刻阪の事になるとこんなに幸せになれんのかな。
メールじゃなくて電話が来た事とか、一緒に喋ってる時とか、会えるんだなって思った時とか。友達、だから?相棒だから?
「……ダメだ、分かんね」
ちょっと考えて、諦めた。…うん、いい加減眠いし…。
2013年は、いろんな幸せをオレにくれたけど、自分の気持ちに対する謎もくれたらしい。
これも、今年分かるようになるのかな?
そんな事を考えていたら、オレはいつのまにか眠りに落ちていたのだった。
end.
+ + + + +
ジ/ルベ/ス/ターは私も今年初めて見て感動しました。描写についての、多少のリアルとのブレは勘弁してくださいm(__)m
2013年は神峰君にとって本当に大転換の年だったと思うのです。
…にしても、うちの神峰はよく泣くなぁ…
Up Date→'14/1/10
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