novel | ナノ


手のひらよりも大きなハンバーグを二つも食べたシズちゃんは、腹一杯だから風呂入って寝る。と、子供みたいな事を言って床に布団を引き始めた。おやおや、俺を泊めてくれるつもり?と思ったら、やはり予想は外れていなかった。ハンバーグの礼だとベッドまで明け渡して。どこまでお人よしなのシズちゃん。俺が君の命を狙う暗殺者だったらどうするつもり?まぁ、当たらずも遠からず、かもしれないのだけど。


シズちゃんの寝顔は、いつか見た屋上のそれとよく似ていた。
当たり前か、同じ人間。あれから10年経ったとは言えそう簡単に面影が消えるわけがない。

来神の屋上で昼寝するシズちゃんに、ふざけ半分でキスをして
タイミング悪く目を覚ました(まぁ、舌まで入れて気づかない方がおかしいんだけど)シズちゃんと屋上半壊のバトルになった時は楽しかったなぁ。責任を全部シズちゃんになすりつけるなんて簡単過ぎて、ただその日を境に学校で寝なくなったシズちゃんにはちょっと惜しいと思ったりもした。

「…バカじゃないの」

間抜けな寝顔を引っ張れば、シズちゃんの眉根が寄る。
本当バカだ。こんなヤツの事、どうして俺はーー

「……ん、む……」

枕に顔をこすりつける仕草もガキっぽい。
乾かさずに寝たせいか、まだ湿ったままの髪を撫でれば心地良さよりもコイツはどこまで無神経なんだという思いを増長させる。


ベッドの上から伸ばしていた手を、髪から頬を通り唇へ。
幾度か なぞれば、一定のリズムで聞こえていた穏やかな寝息がピタリと止んだ。音もなくベッドから滑り降りて、いつかのように唇に触れた。あの頃の煽ってやろうという気持ちはどこへ消えたのか、今はただ触れるだけで跳ねる心臓を、どうやったら止められるのかと考える。死ねば止まるのだろうか、この心臓は。いいや、わからない。”平和島静雄”が死んだ時ですら、歓喜にも絶望にも揺れなかったこの心臓が、止まる事があるのだろうか。甚だ疑問でしかなかった。



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