2、恋人宣言!?@



 その後は淡々と仕事をこなしていて、結局長谷寺様のお嬢さんとはどうなったのか、きゅうりに聞けないままだった。

 気になった。

 正直、めちゃくちゃ気になった。

 気にしていない!と自分に言い聞かせるためだけに、仕事にのめりこんだと言っても過言ではない(と思う)。

 だけどこちらから聞く理由もタイミングもなく、あっさりと終業時間になって、私は会社を後にする。

 午後になって更に色気が増した(何でなの?不思議だわ、同じ人間なのに)仲間さんに挨拶をして、ビルを出たとこで足を止めた。

 女子会なんて、本当はないし、うーん・・・どうしようかな。ケーキとか、買いに行こうかな?

 あ、今日はスーパーもクリスマスメニューでオードブルとか増えてるはず。それ買って、ミニシャンパンも買って、ちょっと贅沢しようかな?それでそれで、DVD借りて帰って、飲み食いしながら観るっと。

 おおお〜!素敵な計画だわ!!そうしよーっと。

 頭の中には、もこもこの部屋着をきて、毛布を足にかけて、ぬくぬくの部屋で楽しくDVDを見ながら酔っ払って感情のままに泣いたり笑ったりする自分のイメージが沸き起こっていた。

 ううーん。素敵すぎる!よーっし、それにしとこ。きゅうりのことも、そうすれば頭から追い払える気がするし。

 足を踏み出したところで、昼間は止んでいた雪がまた降ってきた。

「・・・雪だ・・・」

 これぞ本当にホワイトクリスマスよね。寒いけど、雪がふるなら楽しい気分になれる。

 ニコニコしてスーパーへ寄る。思ったとおりにクリスマス用の惣菜は沢山並んでいて、しかも夕方とあって割引シールが貼ってあるものもあった。

 わーい、と声に出して好きなものを2つばかり買う。それと、ミニシャンパン。今日はこれで一人でお祝い。翌日のパンやヨーグルトも買って、足取りも軽く部屋へ向かう。

 駅前で、既にDVDは借りてあった。胸がスカッとするようなアクション映画と、好きな俳優が出ているラブコメ。

 暗くなった街を粉雪を風で撒き散らしながら自分のアパートまで歩く。

 鼻歌が出るくらいには上機嫌だった。雪と夜と私。何かちょっといい感じじゃない?って、恋人がいないことを寂しく思う情緒もなかった。

 駅に近いので考え事なんかしていたらいきなり部屋が目の前にあってビックリすることがよくあったが、今日は違う意味で本気で驚いた。

 階段を上って、踊り場についた時に気がついたのだ。

 部屋の前に、誰かがいる。

 私の部屋の前に、誰かが立っているのだ。

「・・・」

 大家さん?とか色々考えたけど、暗くて見えない。出来たら大家さんであってくれ。いや〜・・・でもあんなに大きくなかったよね。やっぱ、違うよね。

 どうしよう・・。これじゃ入れないけど、男の人っぽいし、うーん・・・と思って目を凝らしていたら、声が聞こえた。

「・・・瀬川?」

「・・・・・!!!」

 きゅうり!?


 ええっ!?何で何で??

 パニックになって、言葉が出ない。

 目を凝らしてそろそろと近づくと、私の部屋の前でドアに背を預けて立っているのは、紛れもなくきゅうりだった。

「・・・楠本さん!?」

「驚かせたな、悪い」

 駆け寄って、近づく。

「ななななな何してるんですか?ここで」

「ちょっと、頼みがあって。仲間に聞いたら帰ったって言うから、もともと近くにいたし来てみたけど、いなかったから待ってた」

 待ってたって・・・この雪の中?外で待とうと思うには厳しい気温だと思いますけど・・・。

「すみません、買い物してて・・・」

 よく考えたら別に謝る必要はないんだけど、いつもの立場が立場なだけに、つい謝ってしまった。

「いや、俺が先に電話すればよかったんだ」

 そうだよ、その通りだよ、とは勿論言えない。今さらすみませんを撤回するわけにもいかない。全くもう。

「えーっと・・・頼みってなんですか?」

 きゅうりは手で口元を覆って、言いにくそうな顔をした。

 うん?・・・何でしょうか、この顔は。

「・・・お前、今日なんか予定ある?」

「へ?」

「この後、誰かきたり、どっかにいく予定ある?」

 びっくりした。きゅうりが私の予定を聞いている。何がどうなってるのかがパニくった頭では理解できなかったけど、取り合えず返事を搾り出す。

「・・・・予定、ないです。これからいつもみたいに晩ご飯を作って、食べて、寝ます」

 そこまで言うことないか。と思ったけど、言ってしまった後だった。

 きゅうりはちょっと笑って、よく判らないことをさらりと言う。

「俺につきあってくれないか?これから長谷寺さんの娘さんと会うんだけど、一緒に来て欲しいんだ」

「はい?」

 つい、瞬きが多くなった。私は首を傾げる。

 ・・・・えーっと。どうしてだか判らない。結局きゅうりは長谷寺様のお嬢さんから逃げなかったのね、ということだけは判ったけど、どうしてそこに私が同席するんだろう・・・。

 私の頭の上に巨大なクエスチョンマークを見たきゅうりは、とりあえず、と言って私が持っているスーパーの袋を指差した。

「それ、仕舞ってこいよ。待ってるから」

「あ、そうですね」

 と言って部屋の鍵を開けたけど、きゅうりを入れるかどうかで悩んでまた固まる。

 外で待ってるって言ってるけど・・・外は寒いし、一回あげるべき?

「・・・今度は何固まってんだ?」

 きゅうりの声がして、ハッと現実に戻る。

「あの・・・寒いんで、取り敢えず玄関どうぞ」

 ドアを開け放して、さっさと靴を脱いだ。もういいや、上がるか上がらないかはヤツに任せよう。

 私の部屋は8畳のワンルームで廊下なんて立派なものはないので、玄関に入れてしまったら部屋の中が全部、それはもう隅々までが見えるんだけど、それは諦めた。

 掃除したばかりでよかった〜。下着とか、干してなかったよね?男性にみせたくないようなものや、とても生活感に溢れているようなものはなくてホッとする。

 コートも脱がず、買ってきたものを冷蔵庫に入れる。

 きゅうりは玄関に入り、ドアを少し開けたままで私のすることを見ていた。

 バタバタと小さい部屋で動き回って片付けて、玄関に突っ立っているきゅうりに向き直る。

「出れるか?」

 きゅうりが聞いた。

 ・・・・なんか、どこに行くの、とか、なんで私が、とか、聞きたいことはたくさんあるけどはぐらかされそうな感じ・・・・。

 うー・・・またこの寒い中へ出てくわけ?

 なぜ、私が。

 振り返って机の上に置いたDVDを見る。

 ・・・ああ、私のぬくぬくの幸せな今宵の計画よ、サヨウナラ。

 やけくそな気分でまた靴をはいて、鞄を手にもった。

「・・・準備、出来ました」

 笑う気にはならず、むすっとして言う。

 外に出て、鍵をしめた。

「悪いな、行けば判るから、頼む」

 苦笑してきゅうりは言ったけど、口調から、何かの緊張が感じ取れたから、返事はしなかった。

 どうせ口でも何でも勝てる相手ではない。

 もう、なるようになれ、だ。


 車は都心にむかっていた。

 窓の外にはクリスマスイブの街がキラキラと輝いている。音楽があふれ、笑顔もあふれ、皆家族や恋人と一緒にお祝いしているんだろうなあ、と窓枠を指でなでる。

 車に乗って移動してる間に、雪もやんでしまった。空を見上げたら雲も多いから、また降るかもしれないけど。

 私は好きな人の車に乗っている。―――――ただし、デートじゃない。・・・デートじゃない所か・・・他の女性に会いに行くのだ。何てこったい。

 ため息をついた。

 しかも理由は話してもらってなくて、『頼み』の中身もイマイチ判らず、人形みたいなかわいい女の人ときゅうりが並ぶのを見る羽目になるらしい。・・・みせつけなくても、お似合いなのは判ってるよーだ。胸のうちでぶつぶついう。

「あのー・・・楠本さん。それで、私は何をしに、どこに行くんですか?」

 駄目元でもう一度だけ、聞いてみようと口を開く。

 きゅうりは前を向いたままで、さっきまでの何回かと同じ答えを短く返してきた。

「行けば、判る」

 ―――――駄目だ、こりゃ。諦めた。

 深くシートに沈みこむ。

 人間諦めも肝心よね、ある程度は、さ。

 あああ〜・・・それにしても、お腹、空いた。ご飯食べれなかったもんなあ〜・・・。うううう、なぜ、本当にどーして私がこんな目に。

 窓の外に注意をむけ、年末に帰る実家のことを考えていた。電車まだ手配してないしな・・・帰れば楽なんだろうけど、帰るのを考えるのが面倒臭くなってきた・・・。

 帰ったら楽しい時間を過ごせることは判ってる。自分でご飯も作らなくていいし。一生食べろってか!?って思うくらいのご飯をお母さんが出してきて、それでそれで・・・。

 考えている間に車は都心へ入っていった。

 高速をおりて、下道に入り、クリスマスのイルミネーションで飾られてお祭りみたいに明るいビルの駐車場に車を停めた。

「わあ、綺麗」

 思わず声が出た。ねえ、楠本さんと言いかけて振り返ると、きゅうりはさっさとシートベルトをはずし、外に出てコートを着ている。

「・・・・」

 もう。本当に連れてこられただけって感じ。今日がクリスマスだとか、好きな人が横にいるとかって場面でないほどの、ムードのなさ。

 こうなったら、何だかわからないけど自分の役目をさっさと果たして、帰って至福のぬくぬく計画をやり直そうっと。

 先のほうへ歩きかけたきゅうりが振り返って待っていたので、早足で追いつく。




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