▼「クソ、が…!」

ペッと血ヘドを吐き、ラクサスは未だイワンに睨みを効かせたまま。余裕で笑ってこちらを見ている彼に憤りは増すばかり。

それをぺたんっと座り込んでいた塑琉奈は、不安げにラクサスの名前を呟くしかなかった。

だが、彼の耳には届かない。

ラクサスは雷を両腕に集中的に纏めていく。バチバチバチ、辺りはまるでこの場所全てが放電してるかのよう。 


▼「っー!!!!」

それを一気にイワン目掛けて放出。 同時、イワンの身体は雷の光に包まれる。ゴウゴウッと風がまるで哭いているかのように、吹き荒れる。

「(やったか…?!)」

奴の姿が見えないまま。これで終わりか?、と疑念に唾を飲む。 それとは逆に垂れる冷や汗。
そして一瞬にして、ラクサスの視界は真っ暗になった。


▼「なっ…!?あぁ…!!」
「痒い痒い、痒すぎるよラクサスちゅわーん」

ラクサスの目を覆ったそれはイワンが操る紙。 いきなり何も見えない視界に焦りが募り、ラクサスは無我夢中で何度も雷を、周り一辺無差別に打ち込む。

「ひゃはははは!当たんないよー!」

それを嘲笑うかのように、ラクサス諸とも紙が丸い円形の束となっていく。 そのまま、ラクサスはその束と共に、宙へ浮かばされてまた、巨大な爆発をさせられた。


▼「ぐ、は……!」
「いや…!ラクサス…!!!」
「まーだこんな程度かよ!!!よくS級になれたもんだ!!!」

爆発と共に、所々火傷を負ったラクサスが地に墜ちる。

ドシャっと嫌な音と共に突っ伏すラクサスに塑琉奈は我慢出来ず彼の元に走り出す。 未だにイワンの気味悪い声は耳に響いたまま

「馬、鹿が…、来んな…」
「馬鹿はどっちだよ!!!!逃げろって行ったのに…!」

塑琉奈がラクサスを抱き抱え、彼の顔を覗く。 今にも泣き出しそうな塑琉奈の声と顔を目の当たりにして、ラクサスは火傷を負った喉で必死に声を絞り出す


▼ちくしょう……、俺はあんな奴も、塑琉奈を傷付けたやつを、倒すことも出来ないのかよ………。
今まで塑琉奈はこんなに傷を負っていたのに……。

ちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょう……!!!!!!!!!!!!


▼「あれれ?塑琉奈ちゃーん、しゃしゃり出ちゃっていーのー?それ、俺に殴ってくれって言ってるようなもんだよー??ひゃはははは!!!!」
「に、げろ…」
「…!嫌だ………!」

ザリザリザリ、ゆっくりと大きな影が、ラクサスと塑琉奈に近付いてくる。まだまだイワンの声は余裕で。

瞬間、バチィッ!と塑琉奈の頬に痛みが走る。

「ー…っ!」
「…ああ?、なんだその顔は?」

打たれても、塑琉奈はひたすらイワンを見据える。おいこらっと、何度彼に頬を平手打ち付けられても、塑琉奈はラクサスを抱き抱えたまま動かない。


▼「…っ、いい…」
「あ…?」
「…俺のことは、どんなに傷付けたっていい!!!でも、家族だけは、ラクサスだけは…傷付けないでくれ…!!!!!」

そして遂に零れた涙と同時に、塑琉奈は必死に叫んだ。その涙は、気絶したラクサスの頬に垂れる。

ごめんね、ごめんね、ラクサス。俺が弱いから、こんなになって…ごめんね………。

「じゃあ死ねよ」

イワンの言葉と共に、掌に魔力が溜まった拳が、降り下ろされる。刹那、小さい頃からずっと、いつも聞いていた、安心する声。


▼「そこまでじゃ」

自分の背に暖かくて、優しくて、大きな魔力。 途端、巨大な手がイワンを殴る。 そしてドガガガッとイワンは吹っ飛ばされ、木々も共に削れた。

「チィ…!」
「じっちゃ…」
「のう、イワン。儂らの家族に手ぇ出したら…判っとるじゃろうなぁ…?」

お前が一番判っとるじゃろ? 言い続けながら、マカロフは塑琉奈たちの元へ歩み寄る。


▼「じっちゃん…ごめんなさい…俺のせいで、ラクサスが…」
「…何も言わんでええ。儂も、遅れてすまん…」
「うっ、うぁあ………!」


もうどっぷりと空が暗く、夏季の明るさも静まった、木々が泣くように呻く秘密の場所に、塑琉奈の泣き叫ぶ声だけがひたすら響いた。


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