▼俺が来たことに気付いたのか、塑琉奈は勢い良くこちらを振り向いた。彼女の顔はまるで鉄仮面でも付けているかのように、表情が固かった。

が、俺を見たその瞬間、塑琉奈の顔が一気に驚きに染まっていった。無理もない、俺は此処に来るのをやめていたのだから、

「っ…」
「なんで、なんで来たの!?」
「は…?」

彼女の顔が見れず、俺は俯いたまま口を開こうとして、それは塑琉奈の怒号で打ち消された。逆に整理が付かず、思わずぽかんっと彼女を見やる。 すると塑琉奈は怖い形相で俺の側まで走り出す

「早く此処から逃げて…!!!!お願い!!!」
「何言って、どうしたんだよ…?」
「いいから!!!!早く此処から離れて!!!!!アイツがくるから!!!!」
「アイツ…?」

塑琉奈の言葉に、疑問が過った瞬間、誰かが背後で塑琉奈の頭をガシリ、と掴んだ。ちくしょう…っと塑琉奈は力なく呟いた。

そして俺の目の前には、『アイツ』の姿があった。


▼「なんだぁ、ラクサスちゃんどぉしたのー?お前当分此処には来ないって見込んでたんだけど」
「親父…!?」
「ぐ、ぁ、…」
「!?、塑琉奈から手ぇ離せよ!?」

不敵に笑う親父の片手には、ギシギシと掴む力を込められているのか、塑琉奈が呻き声を漏らす。そして、俺の声と共にパッと離されて彼女は地面に突っ伏した

「あーあ、せぇーっかく塑琉奈ちゃん、お前のために頑張ってきたのに台無しだよねぇー」
「……」
「…どういうことだよ」
「…お願い、此処から離れて…」
「おい!塑琉奈!」

彼女に駆け寄り、体を支える。親父の声が異様に気味が悪くて塑琉奈に問いただす。それでも、彼女は離れて、の一点張り。


▼「あははは!!塑琉奈ちゃん本当に言ってないんだ!!!健気だなぁ!!!」

高らかに親父が笑う。 全く状況が掴めねぇ、なんで親父が此処にいる?、なんで塑琉奈は俺を逃がしたがる?

「知らない無知なラクサスちゃんに教えてあげるよぉー!ほらぁっ!」

俺の思考が無数に駆け巡ると同時、親父の声と何かが破けた音が辺りに響いた。それは塑琉奈の服が破けた音。俺はそれを目の当たりにして、思考が止まった。

破かれた衣服の下、塑琉奈の身体には痣、痣、痣、痣、痣。
肩、腕、腹、全部に、無数の痣。


▼「此処、どうやらお前らにとって大事な場所らしいねぇーー???壊してやろうって言ったら、塑琉奈ちゃんが「壊さないで私をサンドバッグにしてー!」なんて言うからよォ!!!いっぱい調教してやったんだ!!!」

親父の言葉が嫌でも耳に入る。 あまりの衝撃で呆然としていれば、塑琉奈は自分の体を腕で必死に隠しながら、かき消えそうな声で「ごめんね…」と俺に言った。


な ん で 謝 る ん だ よ


▼「うぁああああ!!!!!!!」

途端、ラクサスの叫び声が辺りを轟かせる。

▼塑琉奈は、ずっと待ってたんだ。俺が此処に来るのを。

「てめぇだけは絶対許さねぇ!!!!!!」
「ヒュー!やる気だねラクサスちゃん、良いよ!ちょーどお前がどれだけの力か試したかったしねぇ!」

バチバチ、彼の身体に雷が纏まっていく。 怒号と共に木々達が揺れる。

「ああああ!!!!」
「あははは!」

物凄いスピードでイワンに掛けていくラクサス、それを嘲笑うかのように紙を出しては、それを竜巻のように渦を作り、自分へ向かうラクサスへ当てる

「ぐっ、」

腕で視界を確保するも、ベチベチベチっとその紙々は彼の身体に纏わりつく。


▼ラクサスはそれを気にせず、今度は一瞬でイワンの間合いへ。

「おっ?」
「ふんっ!」

雷を拳を大きく奮い、イワンに一発。 だがその瞬間、イワンの身体は無数の紙に。

「全然周りみてないじゃーん」
「ぐっ、うあ!?」

空を殴ったラクサスの拳を始めに、無数の紙が彼の体を覆い、ギュウンッと音と共に、一斉に爆発。

「ラクサスー!!」
「てんでダメだねぇ」
「うぁああっ!?」

イワンの本当の身体はラクサスの背後。しかも未だ不敵な笑みを浮かべたまま。

「はっ…、はっ…」

爆風と共に、彼の息切れが聞こえる。ラクサスはもうボロボロになった体を、支えるように立ち上がった




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