▼その言葉に、は?っと俺が一瞬惚けた時だった。

その言葉が合図だったのだろう、一斉にもう1人の子が俺に勢いよく助走を付けて突撃してやってくる。

それが目に映り、反射的に身じろぎしようとすれば、元々引っ付いていた子が今度はギュウウッと力を込めて俺を抱き締めて離さない。

それはまるで抑えてるかのようで…はっ!?これがガッチリホールドってやつか!?!

ちょ、おまっ!とそれに慌てて引き剥がそうとすれば、俺の背中にもう1人の強烈な頭突きが炸裂。その瞬間、左手に持っていた俺の籠からポロポロと少しお菓子がこぼれ落ちる。


「いってぇー、容赦ねぇー…!」

「よしお菓子ゲット!」

「わーい!」


二人の子供からもそれが見えて、お菓子が地面に落ちた瞬間、真っ先に俺から離れて直ぐにお菓子を拾う。そしてお菓子を手にしてからわーい!と二人は喜びの声を上げた。

俺はというと、意外にも子供が付けていた悪魔の角がクリーンヒットして、じんじんと身体中に広がっていく痛みにおよよ、としょぼくれた顔で背中をさする。

するとニヤッと悪どい笑みを浮かべた二人が俺に振り向いた。それを見て、思わずひくっと引き攣り笑いが出た。

それは最早悪魔そのものにも見える、何を企んでいるか分からない、恐ろしい笑み。


「塑琉奈ー!目瞑れー!」

「おらおら!瞑れー!瞑れー!」

「ふざっけんなっ、お前らさっきので充分悪戯じゃねーか!俺の背中きっと腫れて赤いよ!?見る!?」

「見ないよ!さっさと目を瞑れ!」

「ちくしょう!!さっきまでお前ら好きだわって思った俺の気持ちを返せーーー!!!」


今度はお菓子片手にわーわーぎゃーぎゃーと俺を追い掛け回す子供たち。

目瞑れ目瞑れと連呼してポコポコと背中叩いたり、蹴ってきたりするもんだから本当に容赦ない。てか背中叩くな!さっきのマジで痛かったんだよ!!


▼「分かった!分かったから!」

「そうだ!それでいい!」

「あとしゃがめ!」

「なんでそんなに偉そうなの!?そんな子に育てた覚えはありませんよ!?」


子供たちの執拗な言い様と攻撃に、いてて、と頭を抱えながら塑琉奈はその二人の言い分に仕方なく折れることに。そうして、すぐ様言う通りに、彼らの目の前でキュッ目を瞑った。

よいしょっと彼らの身長に合わせしゃがみ込み、真っ暗な瞼裏の世界で、子供たちの行動の意図が分からずに塑琉奈は、疑問を眉間のシワに変えて顔をしかめる。


「(一体なんなんだ…)」


たかが子供の悪戯、されど子供の悪戯。
只でさえ自分によくつるんでくるヤンチャな子供たちの悪戯となれば、不確定不安要素が強くて、目を瞑っているというのに、つい苦笑いがこぼれる。

けれど、その苦笑いは一瞬で終わりを迎えることになる。




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