▼嫌いな食べ物はない。好きな食べ物…は沢山ある。強いて言うなら、食べ物というよりか料理。となるんだろうか。

確かに食べるときに苦戦や、抵抗のある奴はある。ゴーヤとか納豆…とかか。納豆なんか臭くてネバネバして掻き回さなきゃならねぇし、初めは嫌いだったな。

けど…いつだったか、納豆が食えるようになったのは。


▼『はい、ラクサス』

『…げ、なんだこれ』


確か5年前、あの時はまだ嫌いだった納豆。それを知ってて塑琉奈はカレーにそれを乗せて出してきやがった時があったけな。

あれを見た時、俺は相当嫌そうな顔をしていた筈だ


『ラクサスが納豆克服出来るように、大好きなカレーに合わせてみたんだー。』

『なんで合わせるんだよ、絶対合わねぇだろ』


そんなことないよ、とニコニコ笑いながら自分の目の前、向かい合わせに座る彼女。そして「召し上がれ」と眩しい笑顔で言うもんだから、ズルいと思う。

そうされちゃ、食わなきゃいけねぇのも分かってるくせに。


▼小さく舌打ちを溢すも、目の前の塑琉奈は気にすることなく、食事を始める。そして「美味いよ?」っと首を傾げる彼女に「…仕方ねぇ」っと内にごちる

塑琉奈と同じように、納豆とカレールーを一緒に掬い上げ、じっと見つめる。そして意を決してそれを口を放り込んでみる。

すると、予想外な味が口のなかで広がった


『…うめぇ』

『だろ?』


目の前で美味しそうに食べる塑琉奈の顔、彼女の作った納豆カレー。意外にもするり、と喉を鳴らし飲み込んでしまった美味しいそれ。

二重で何だか幸せな気分が胸奥から落ちた


『ラクサスが食べれるように色々考えてみたんだ』


そうして、ガツガツと食べ始めた俺に、心底嬉しそうに言った塑琉奈の言葉。
それが脳裏に広がって響く


▼「…ああ、確かそうだったな」


あいつ確か言ってたっけ。臭くねぇ納豆探してきたとか、納豆のためにカレーに工夫してみたとか。そういや、そうだったな。

ぐぎゅる、不意に腹が鳴る。こんなこと考えていたからか、ウズウズに出てきた欲は「空腹」


「今日は作ってもらうか」


思い出しちまったら尚更食いたくなる。彼女の作る味、やり方、工夫、それだけで俺の嫌なものは悉く塗り潰される


「(好きにならねぇ筈がねぇか。)」


塑琉奈が作ってくれるだけで、嫌いから好きに変わり、食べれるという事実。…それだけ、俺はあいつの料理が好きなんだな、と再確認した




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