▼昔は綺麗なお花。18歳の頃はクッキー。少し彼が荒んでいた時は一緒にご飯食べに行ったかな。それが、ラクサスが今まで俺にくれたホワイトデー。
今年はなにかな。一年に色々とあった去年。逞しくなった彼からのホワイトデープレゼント。何故だか、いつも以上に期待に胸が膨らんだ。
別にあれが欲しい、これが欲しいとか、そんな物欲はないし、いつも彼から貰うものは何であれ嬉しいもの。
なのに、色々あってから、もっと甘いものが欲しくて。それを彼からくれないか楽しみにしている自分がいる
「なんか…」
まるで子供に戻った気分だ。誕生日や、クリスマスに何が貰えるかワクワクするそれ。それか、くれるのがラクサスだからかなぁ、と不意に淡い気分へ変わる
▼「塑琉奈」
「んー?」
「ほら」
ぼうっと何かな、何かな、っと考えてるうちに、ふと頭上から声が掛かる。心地のよい、聞き慣れた低音ボイス。
それに顔を上げれば、同時に俺の隣にコトリ、と小さな箱を置いた彼。それが分かった瞬間、俺は一気に満面の笑み。
▼「わーい!何にしたの今年は!」
「開けてみろ」
「うん!」
子供のように無邪気に笑い、小さな箱を手に取る塑琉奈。そんな彼女の様子に、ラクサスは小さく笑いながらその頭を撫でる。
まさかそんなに期待してたなんてな、と内に溢し、少しだけ嬉しいくて頬が緩む。
そして小さな箱を開いてから、塑琉奈の「あれ?」っというポカンとした声が上がった
▼「ラクリマ…?」
小さな箱の中は、宝石ほどの大きさの、クリスタルのように透き通った綺麗な黄色のラクリマ。そこからチェーンが繋がれていて、ネックレスのようになっていた。
それを手に取り、首を傾げながらラクサスを見上げる塑琉奈。それに「俺のラクリマだ」っとラクサスは答えた
▼「あの時は、何もやれなかったからな」
今までは、心に残るようなそんな温かい思い出ばかりで、満たされればきっと良いって、俺たちは思ってたんだ。
けど、ふとした時に、『物』として、何か…やりたくなった。
「(曲がりなりにも俺は)」
お前を一人にさせてしまった事実は変わらねぇんだから。
一人にさせてしまった時に、何も残してやれなかったから。
▼「俺がいなくて寂しくなったら、それを見てろよ」
「はー?なんだそれ、ならねーよ」
「どうだかなァ?」
まあ、でも…ありがとう
っとそうにひひ、と照れ臭く笑い、少しだけ顔を俯かせる塑琉奈。素直じゃねぇな、なんて思いながらも、俺は返事を返す。
▼「ほら、着けてやるよ」
「う?うひひ…、おーう」
彼女からネックレスを受け取り、首を通し、金具を繋げようと指を動かす。すると背中越しに、やんわりとした温かい声が聞こえた
「俺が寂しいと思う前に、迎えに来てよ」
いつでも待ってるから。ラクサスなら分かってるだろ?っとそう付け足す塑琉奈。
彼女の言葉に、不意に抱き締めたい、という衝動に駆り立てられる。
ああ…たくっ、とバレないように小さな舌打ちを溢し、少し動揺する指に苦戦しながら、俺はやっとネックレスを塑琉奈に着けてやる。
「…当たり前だ」
そして、抱き締めたいという衝動の代わりに、俺はネックレスを着けた塑琉奈の首に、柔い口付けを落とした
前 次
▼back