▼ぐるぐる、包帯を腕に巻き付ける。血は出てはないけど、ところどころ痣だらけで、見た目は随分と痛々しい。ぎゅうっとキツく締めなければ緩むため、時たま痛みで眉を潜めた。
一度消毒をしようかと、救急箱から消毒液を手に取り、キャップを開ける。するとスンッと鼻に付くようなアルコールの匂い。
滅竜魔導士だからか尚更に、嗅いだだけで鼻腔がじんじんとするのに「やっぱりいいか」っとキャップを付けた。
「あ、いた。ラクサスー…ってお前!なんだよ、その怪我!」
「…ちっ」
ああくそ、見られたくねぇ奴が来やがった。只でさえ心配掛けたくねぇから隠れてやってたのに…、本当にコイツはよく俺を見つけ出せるもんだ。
ほら貸してみっと、此方に歩み寄り俺の前をしゃがんでから手を差し出す彼女。
それに、俺は少し悔しくてそっぽを向いてやる。
▼「…意地っ張り」
彼女の差し出した手には何もなく、渡してくれないんだろうと確信を持ってから、パシッと塑琉奈から包帯を奪われる。
そして、そこからん、と顎で腕を指すのに俺は渋々言うことを聞いた。
▼「……。」
「……。」
「……なあ」
暫く俺と塑琉奈の間に沈黙が流れる。ぐるぐる、ぐるぐる、その間に次々と綺麗に俺の腕に巻かれていく包帯たち。それを目で追いながら、ぽつりと呟いた。
「何も…言わねぇの?」
「何か言ってほしいの?」
「…っ、別に…。」
少し彼女との雰囲気が息苦しくて、目を合わせられないままに俺は一度深呼吸。
その頃には、もう俺の腕は包帯でピッチリに。
▼「…若い時は無茶してもいいけどさ…」
そして、ふわり、彼女の手が俺の腕から離れると同時に、静かな落ち着いた声が漏れる。
その声と、名残惜しい彼女の手に釣られて、やっと塑琉奈と目が合う。
「何だかんだ、心配するんだよこっちは。」
そうすると視界には、はにかんで笑う塑琉奈の姿があった。
▼そのまま、彼女はバーカっと笑いながら俺の額を小突く。それに、いって…っと漏らし、額を擦ったまま塑琉奈を見据えて、俺はまた悔しくなる。
だから見せたくなかったんだよ…、分かってるんだよ。分かってるから…見られたくねぇんだ。
「…ねぇラクサス、今日の晩御飯、オムライスにしてあげる。」
「…ん。そりゃ楽しみだ。」
▼お前のことをとやかく言ってきた奴等を殴った拳、足、足先、肘、全部が、今になっては傷となって痛むのに。後悔はしてない。
「ラクサス、好きだよ」
「…おう。俺も好きだ」
だって、好きなものを馬鹿にされたら誰だって頭にくるだろう?
▼彼女に差し出された手を取り、ぎゅうっと握り返し立ち上がる。そして此方を振り向き、靡く黒髪をそのままに塑琉奈は笑う。
「…だから喧嘩はほどほどにな?」
そしてどうやら、俺が傷を負った理由も、彼女には筒抜けだったみたいだ。
前 次
▼back