▼『どさくさ紛れの落し物』と繋げても、繋げなくても読めます。



▼年末年始でバタバタと忙しなく動く人々。プールとギルド内の大掃除やら資料の整理、そして後から空になるだろうご馳走の数々がカウンターに並ぶ。。

俺もその光景を見るのが久々で、つい仕事のことを忘れて其れをぼうっと見つめる。

けれどもそれは、厨房から顔を出した塑琉奈に捕まって終わり、気が付けば手伝わされてる始末に。

まあ、たまには良いか…こういうのもな。


そしてなんで俺が…、と、口では文句を垂れながら、彼女の背とその先に広がるバタバタと忙しいギルドを見て、少しだけ頬が緩んだ。


▼「結局いつもと変わらねぇな」

「そうだなー」


もう時間は深夜を通り越し、早朝の4時を回る頃。

年明けもあってか夜遅くまで起きて騒いでいたギルドの連中も、流石にこの時間帯になると一気に眠くなってきたんだろう、今じゃグースカと奴等の雑魚寝の海が広がる。

そんな床に横になってる奴等の間を跨ぎ、散らかった食器や食べかすを拾い上げ、片付ける塑琉奈。

それを中心に辺りを見渡しながら、俺ははぁっと大きなため息を溢した。


「ラクサスももう寝ろよ、夜更かしはお肌の敵だよ?」

「だったらお前が寝ろよ」

「俺片付けがあるもん」


そう言って、魔法でミントを出しては、俺に背を向ける彼女にまたため息が漏れる。

年明けくらい、そういうの休んでコイツら叩き起こせば良いのによ。全く、年明けてもやっぱり塑琉奈は変わらねぇ。


▼彼女の両手には、積み上げられた大量の食器。塑琉奈がこちらに歩く度にそれががしゃっと揺れる。

そうして、塑琉奈が食器をミントに頼んでから俺の元に歩み寄る。

「なんか新鮮だな」っと、座ってる俺を見て言葉を漏らす塑琉奈に、なんのことだ、と頬杖しながら彼女を見上げる。


「ラクサスが年越しにいるの。いつもは仕事でいなかっただろ?」

「…そう、だな。」


そして、にへらっと笑う塑琉奈とは逆に、言われたことに少し気まずくなって俺は口を萎ませる。


▼彼女の言う通り。俺は今まで年越しをこうやって過ごしたことなんて小さいから、15歳の頃を含めたその期間だけだ。

忘れちゃいないが、あの時の騒がしさは、今と全く変わらない。

そして、塑琉奈がこうやって奴等よりも起きて片付けするのも、変わらない。

俺が帰らずに、年越しをする度に彼女はこうやっていたんだろうか。そう思うと、不意に昔の自分に憎さが込み上げてくる。


「…今度からは」

「ん?」

「ちゃんと帰ってくる」


ぽつり、そう呟いた時には、無意識に隣にいた彼女に、座ったままに抱き付いていた。

それに、わっと少しの驚きの声が上に掛かるも、俺はじんわりと温かい塑琉奈のぬくもりが気持ち良くて瞼を閉じる。


「…うん。いつでも待ってるね」


また一緒に年越ししよう、そう優しい声が俺の中で谺する。

そして、柔らかい触れ方で俺の頭を撫でる彼女。

よしよし、と、まるで子供をあやすように、やんわりと腕を俺の手に回し、ポンポンと軽く叩く。


「…っ、ガキじゃ…ねぇ…」


彼女のぬくもり、彼女の動作、彼女の声が。全部心地よくて、全部が俺の中を満たす。

それが、あまりにも満腹感を得たような眠気に変わる。


「おやすみ、ラクサス」


そして、塑琉奈の言葉を合図に俺はとろりと溶けるような睡魔に落ちていった。





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