▼今年も残り僅か。色々な事があって、俺らにとってはやっと一年。けど、他の奴等にとっては八年目、となるんだろう。
そう考えちまうと、つい気分が落ちこんじまう。
けれども、皆にとってはやっと帰ってきた俺たちと、新年を迎えられる。
それが余程嬉しい事なんだろう、と思ったのは、年明けに向けての準備で皆が活き活きとしてることだった。
▼「よーし!俺も頑張るぞ!」
「あんまり無茶はすんなよ」
次々と持ってこられる食材を片っ端から調理に集中させる俺。
ギルドの連中は大食いだらけだし、マグノリアの人たちからも注文が沢山きていて、止まることない体。
そして、それを酒の樽を傍においたラクサスに指摘されて、つい、皆に負けてらんねーよ、って笑みが溢れた。
▼「お前はいつも無茶するじゃねぇか」
「え?そうかな?」
「自覚ねぇのかよ…」
料理をしてる俺の傍ら、少し呆れた顔でやってくる彼。
その様子に疑問符を浮かべてれば、ラクサスは其れよりも隣の台に置いてあった出来立てのローストビーフをつまみ食い。
そして「ん」っと口を漏らすだけで、モグモグとそれを食べた。
▼「ま、塑琉奈はどうせ倒れねぇから良いけどな」
ぺろり、と指に付いたソースを舌で舐めてから、此方に顔を向いてにやり。
それを見て、美味しかったのかな、なんて思う。
「俺だって人間だっつの、倒れるとき位あるわ」
「ほう、そいつは初耳だな。メスゴリラだと認識してたんだが」
「てめ、こらラクサス、お前ご馳走抜きにされてぇんか?お?お?」
フッと笑うラクサスはとてもカッコいい。カッコいいのに言うことが一々余計だわボケ。
ゴリラはお前だって言ってんだろ、こんちくしょうめ!
料理をする手を止めないまま、彼の顔を覗き、むすっと顔をしかめれば、「冗談だ」っとまたフッと笑うラクサス。
それ反則だよね、だってそれでなんか丸く収められそうなんだもん。
▼「塑琉奈」
「なにー?」
顔を元の位置に戻し、視線は目の前に集中。あと少しで出来るから、次の準備しとくかなー、と考えてれば、今度は呼ばれて生返事。
「お前が倒れたら、俺が支えてやるよ」
「えっ」
「手伝いに戻る。じゃあな」
少しの間があってから、ハッキリと出てきた彼の言葉。その言葉に、俺は間抜けな声と動作が一気に遅れる。
え、え、なに?えっ?、とブンブン頭を揺らす勢いで彼の方を振り向けば、ラクサスはゆっくりと俺の元を離れていってしまって。
「(ま、待て。今のは…あれ、だよな?)」
仲間として、だよな?
そうだよな?
脳裏に鮮明に再生される先ほどのラクサスの言葉。それをもう一度聞いてから、塑琉奈は思考の混乱と共に、顔に熱帯び始める
「(言い逃げすんなよー!バカヤロー…!)」
逆に分かんなくなっちゃったじゃんかよ…、バカゴリラめ…。
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