▼塑琉奈は素直じゃない。何れくらい素直じゃないかって?そうだな…、簡単に言えば欲しいものを欲しいって言わねぇタイプだ。


「……。」


ジッと彼女が見つめる先を目で追ってみる。するとそこには、子供に風船をあげてるお菓子の店があった。 塑琉奈はピタリ、と足が進むこともなく一直線にそこを凝視。いつものことながら「またかよ…」っと内に溢した

「欲しいのか?」

「え、」

塑琉奈に声を掛ければ、我に返ったのか、キョトンとした顔でこちらを振り向く。 すると彼女の目がキラキラ輝いてるのが分かる

昔からそれを見てきたが、俺は塑琉奈のその目に心底弱い。

「しょうがねぇな、何れが良いんだ?」

「え、うんにゃ。違う違う。風船!」

「風船…?」

小さくため息を漏らしながら、お菓子を買ってやろうと塑琉奈に希望を聞いてみる。すると予想外な返事。

彼女が指差す先は、お菓子のお店の前で配ってる風船の方だった


「黄色が欲しい」

「自分で貰ってこい」

「えー…」


25歳で流石に貰いに行けねーよ、と頬を膨らませる塑琉奈。それに「俺も同意見だ」っとはっきり断ってやる。

すると、今度は残念そうに肩を落とす彼女。「風船…」っと呟きながらゆっくりと歩き出す


「はー…」


とぼとぼ、先を歩く塑琉奈の背を見つめながら、俺はため息を一つ。そしてガシガシと頭を掻いてから、俺も足を進めた


▼「ん」

「へ?」


何処行ってたんだよ、とお菓子のお店の少し先、待っていたんだろう塑琉奈が止まっていた。

俺はそんな塑琉奈に、手を差し出す。正確には紐。紐の繋がれた先には、先ほど塑琉奈が欲しがっていた黄色の風船。

正直、コレを貰うのに何れだけ苦労したか…。俺が恥を忍んでやってるのと、あの時の風船をくれたおっさんの顔、そして不思議そうに見ていた子供たち、嫌でも今それが脳内に残る。ああ早く忘れてぇ。


「…ありがとう!ラクサス!」


ぎゅうっと、俺の手を握り、塑琉奈は嬉しさのあまり、満面の笑顔。本当にそれで一気にさっきまでのことがぶっ飛んだ。

俺から風船を受け取り、えへへっと彼女は言う


「ラクサスと同じ色だから、どうしても欲しくなっちゃったんだ」


その言葉を聞いて、俺は釣られて頬が緩む


「(じゃあ俺も、塑琉奈と同じ色の風船でも貰っときゃ良かったな)」


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