▼「好き」とか「愛してる」とか、よく漫画や映画なんかで聞いたりするけど、そんな時は照れたり、恥ずかしがったりなんてしない。

それは皆そうだと思う。だって自分に向けてる訳じゃなくて、それは所謂『ヒロイン』に向けてるわけなのだから。

俺はその『ヒロイン』にはなれない。

だってあいつの中の『ヒロイン』ではないから


「また漫画買ったのかよ」

「うん、続きが気になったからつい」


彼の家で、やることも終えてダラダラと漫画を開く俺。エバに借りた少女漫画が意外と気に入って、つい新刊まで買ってしまった。

たまにはこういう甘い話が欲しくなって、クセになる。その術中にいる俺って、曲がりなりにも女なんだな。なんてちょっと皮肉が漏れた


「おい」

「ん?」

「漫画読むだけなら家に帰れ」

「えー、良いじゃん。ラクサスは見掛けによらずケチだなー」


何が気に食わないんだろう、ソファーに座って俺を見下ろす彼の顔はとてもつまらなそうで。

なんだよ、たまには現実逃避の疑似恋愛気分に浸っても良いじゃん、なんて思いながら頬を膨らませる。


まあでも、少女漫画を読んだところで、俺はこの『ヒロイン』ではないことは分かってる。こうなりたい、とまで思わない。そこまで子供じゃない。

ただ、余韻に浸りたい。胸をときめきさせたい。なんていう気持ち悪い願望


「なんだよ、女でも呼びたかった?」

「…そんなんじゃねぇ」

「まーたまたー!!!!全く、それならそうと言えよな!これだから万年発情期はー!」


少し声を低くさせたラクサス、俺はそんな彼をニヤニヤ笑いながら、せっせ、と漫画を纏める。

そう。彼の中の『ヒロイン』はいつだってコロコロ変わる。それが俺が『ヒロイン』になれない理由。

きっと。おそらく。たぶん。
そんな不安定な予測だけど、俺はお前のヒロインにはなれない気がしたんだ。


「…なあ」

「なーに?」


漫画を纏め、ダラダラするのも終わり。そうして俺は彼から背を向けて立ち上がる。

すると、ラクサスはそんな俺の背に声掛けてくる。

いつも通りの平常な声を上げて、俺はそれに反応して振り返る。


「好きだぜ」


そして、ラクサスから発せられた言葉。

それを聞いた瞬間に、俺は手元にあった漫画をバサバサバサッと落としてしまった。


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