やせいのムックルが とびだしてきた?
コトブキシティで一泊し、次の日。
ソノオタウンへ向かうため、北に歩みを進めていた。
「お、トレーナー! 僕と勝負してよ!」
「私の自慢のポケモンと勝負しましょ!」
途中でトレーナーに勝負を挑まれ、昨日ジムに参加できなかったコリンクに任せることに。
「すごいよコリンク、全勝しちゃうなんて!」
褒められて嬉しいのか、ふふんっと鼻を鳴らしているコリンク。
実は先程、”スパーク”という電気タイプの物理技を覚えたのだ。
漸く電気タイプの技を覚えられて嬉しいようで、「まだバトルしたりない!」と言いたげに私の靴をがじがじと噛む。
端からみれば可愛らしい光景だけど、私には別の意味が篭もっている気がした。
「……モウカザルが進化して、焦ってる?」
「!」
コリンクは図星だと言うようにビクリと身体を跳ね、ゆっくりとこちらを見上げた。
……やっぱりそうだ。
「大丈夫よ、コリンク。貴方のペースで進めばいいんだから。私もそのペースに着いていくから」
「……」
コリンクの頭を撫でると、ふわふわとした体毛の感触が手に伝わる。
いつもなら恥ずかしがって嫌がるんだけど、今日は素直に撫でられている。可愛い。
「……なんだか似ているなぁ、2人と」
「?」
「私の幼馴染。レッドとグリーンって言うんだけど……いつか会わせてあげるね」
性格も姿も、そもそもポケモンと人間なんだから全く違う。
でも、互いにライバル意識を持っていて、その意識の中で確かに信頼という感情が芽生えているのは確かだ。
そこが似てる気がするんだ。
何だかんだで2人とも互いのこと信頼しているしね。
「さて、もう少しでソノオタウンに着くはず! まずはあの洞窟を抜けようか」
私達の前方に見えている洞窟。
タウンマップにもあったけど、あの洞窟は”荒れた抜け道”というらしい。
抜け道というくらいだから、抜けるまでにそこまで時間はかからないだろう。
「二度目の洞窟ね。どんなポケモンが生息しているのかな」
コリンクは早く入りたいのか、それとも野生のポケモンを相手に強くなりたいのか、先に進んで「早く!」というように私を催促する。
彼が怒らないうちに早く行かないとね。
___コリンクを追う私を後ろから見つめる眼差しに気づくことなく。
***
荒れた抜け道に生息していたズバットとコダックを倒しながら出口へ。
急に明るくなり、目が眩む。
視覚が正常に戻り見えた光景は、少し小さく見えるコトブキシティ。そして、先程まで歩いて来た道。
「こういう光景を撮りたかったんだ……!」
首に掛けていたカメラを構える。
ピントを合わせてパシャリと写真を撮った。
出来映えを見ようとカメラを操作し、写真を見た……が。
「……あれ」
何か右上に変なものが映っている……。
何だろう……と考えたが、その”変なもの”の正体はすぐに判明した。
「!」
バサバサと翼を羽ばたかせる音。
上を見上げると、可愛らしい鳥ポケモンが不思議そう首を傾げてこちらを見下ろしていた。
えっと確かこのポケモンは……『ムックル』だ。今まで戦ってきたトレーナーが持っていて、何度も見た。
羽を休めるようにと腕を出すと、ムックルは何の疑いもなく腕に止まった。
「……この子、野生のポケモンだよね?」
暢気に私の腕で毛づくろいを始める始末。警戒心薄くないですか……。
ムックルについて見てみようと図鑑を開く。
……ふむふむ、普段は群れで行動しているポケモンのようで、それぞれの弱さを互いにカバーし合っているようだ。
あと、鳴き声がとてもやかましいって書いてあるんだけど、ちょっと失礼じゃない?
「ね、ねぇムックル。群れに帰らなくていいの?」
いつまでも帰る素振りのないムックルに苦笑いを零す。
隣でムックルを見上げているコリンクもジト目で、ちょっと呆れている。
そんなコリンクを見て更に苦笑いを零してしまった時だ。
お腹の鳴った音が聞こえたのは。
「……お腹空いたの?」
明らかに私の腕に止まっているムックルから聞こえたので、そう尋ねてみると元気よく返事した。
うっ、た、確かにうるさい……。更に近距離だから鼓膜が……。
「よしよし。だったらきのみをあげるよ」
バッグの中から適当なきのみを取り出し、差し出すと嬉しそうに啄んだ。
……この子、本当に野生のポケモンだよね?人慣れし過ぎていない?
そう思っていると、ムックルの鳴き声らしきものが遠くから聞こえた。
そこを振り返ると数羽のムックルが群れになって飛んでいた。あ、確かムックルは群れで行動してるんだっけ。
「ほらムックル。あれ、君の群れじゃない?」
そう問いかけたが、ムックルは群れを見た瞬間プイッと目を逸らした。
見えた表情は、どこか怒りを含んでいるように見えた。
2021/10/08
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