つよさをもとめた けっか



「もしもし。どうしたの?」

『……やっと繋がった』


電話越しに聞こえた声は、ここ最近聞きている声……レッドのものだった。


「ゴメンゴメン。昨日はあの後、ポケギアの電源切ってたんだ」

『……常に電源入れてること。いい?』

「はいはい」


どうやらレッドは私がシンオウ地方に一人で滞在しているのが心配でたまらないらしい。


『……ぼくも一緒に行けばよかったな』

「え、でもレッドにはレッドのやることがあるでしょ?」

『……』


あ、黙っちゃった。
ということは肯定ってことね。


「あ、そうそう! あのね、さっきシンオウのジムに挑戦したんだけど……」

『……どうだった?』

「初挑戦で勝利!」

『! ……おめでとう」

「えへへ、これもレッドの教え方が上手いからだよ!」


私にとってポケモンバトルの師匠はレッドとグリーンだ。
元々私はバトルセンスはそこまでないし、そもそもポケモンとのんびり過ごす方が好きだ。でも、ポケモンにとってバトルは切り離せないものでもあるわけで。

”ポケモンの為にもバトルの知識は蓄えた方がいい”
そう言ったのはレッドだった。
私のポケモンたちもレッドに鍛えられたと言われても過言ではないと思う。


『……そっか』

「流石チャンピオンだね!」


聞いた話なんだけど、レッドはリーグを突破してチャンピオンになったらしい。
レッドのお母さんが嬉しそうに話していたのを覚えている。


『……ぼくはチャンピオンじゃない』

「え?」

『……チャンピオンの話は断った』


チャンピオンの話を断った。
レッドの言った言葉が頭の中で響く。


「どうして……? あんなにチャンピオンを目指していたのに」

『……バトルしても楽しくなくなった』

「楽しく……ない?」


あんなにまっすぐにポケモンを愛していて、熱くて……。そんなレッドが今、バトルをしても楽しくないと言ったの?


『……知ってるか分からないけど、先にチャンピオンになったのはグリーン』

「!」

『その後にぼくがチャンピオンになったばかりのグリーンとバトルして……勝った』


レッドとグリーンの実力は誰が見ても高いと言うだろう。
でも、グリーンはいつも言ってた。レッドには勝てない、と。
……その悔しそうな表情を今でもよく覚えている。


『グリーンを倒した後……達成感はあったし、嬉しかった。でも、その後にやってきたトレーナーは誰一人ぼくに勝てなかった』

「……」

『ずっと勝っているうちに……何もかも、分からなくなった」

「レッド……」

『……だから強い野生ポケモンが生息するシロガネ山で、毎日強い野生のポケモンを相手にしてる』


強くなりすぎた代償と言えばいいのか。
レッドはバトルの楽しさを忘れてしまったのだろうか。

あんなに楽しそうだったのに……レッドとグリーンがバトルしている姿が何よりも好きで、見ていると引き込まれてしまうほどすごい光景で。


「……大丈夫だよ、レッド」

『……?』

「いつかレッドを倒すトレーナーは現れる。いつになるかは分からないけれど」

『……そうかな』

「そうだよ。もしかしたら、もう身近にいたりして」

『それ、グリーンのこと言ってない?』

「あ、バレた?」


だって、レッドを倒せる可能性があるトレーナーってグリーンしか思い着かないんだもの。
あっさりバレた私の考えを答えたレッドは、電話越しに溜息をついた。


『___ナマエは?』

「え?」

『ナマエはぼくを倒してくれないの?』

「……私は二人に勝てたことないし、無理だよ」

『……そうやってすぐ負けを認める』

「!」


だって、私は二人に勝てたことなんて一度もない。
そう思ってしまっても仕方ないじゃない。


『ナマエは弱くない。それに、トレーナーとしてはぼくやグリーンより高いと思う』

「! そんな訳、」

『トレーナーの実力は別にバトルだけじゃない。ポケモンに対する愛情、知識も実力のうちだ。特にナマエはポケモンに注ぐ愛情に関してはぼく達より上だよ』

「……そうかな」

『うん。だから___もっと自分に自信を持っていいと思う』


レッドに言われると自信が付いたような気分になる。
レッドとグリーンは私にとっては憧れでもあるから、やっぱり褒められると嬉しい。


「……ありがとう、レッド」

『……別に』

「またジムバッジゲットしたら電話していい?」

『……勿論』


この後、レッドとはちょっとした雑談をして通話を終了した。
……その雑談の中に出てきたもう一人の幼馴染の名前。


「……グリーン」


もう二年も顔も、姿も見ていない彼の姿を思い浮かべた。

私はあの日、セキエイ高原……ポケモンリーグへ向かったグリーンを見送ったのを最後に、彼とは会っていない。
噂でトキワジムに就任したというのは聞いたけど、実は会いに行ったことはない。

会いに行こうと思えば行けた。でも、私はトキワシティに行けなかった。


トキワシティ
あそこにはロケット団という、カントー地方を拠点に暗躍していた犯罪組織のボス……サカキがジムリーダーを務めていた。

だが、レッドがサカキに勝利した後、トキワジムは一時閉鎖。
7つ目のバッジを貰っていた私は、一時閉鎖して方針が決まっていないタイミングで訪れてしまったため、ジムに挑戦する事は叶わず、ただバッジを貰うだけになってしまったのだ。

だから、私は8つ目のジムを制覇したわけじゃない。
……ズルで得たバッジだ。


それに私は、ロケット団が嫌いだ。
だって、あの人達は___


「思い出しちゃダメ! ……ロケット団はレッドが倒してくれたじゃない。もう解散したんだから……!」


自分の頬を思いっきり叩き、さっきまで考えていた事を吹き飛ばす。
今日はコトブキシティで一泊する予定なんだから、夜になる前に早く移動しないと!

そう思い、一歩踏み出そうとした時だった。


「!?」


突如ボールから誰か出てきた。
振り返るとそこにはモウカザルが立っていた。


「……もう肩には乗せてあげられないよ?」


残念ながら大きくなり多少重くなったモウカザルを肩に乗せるのは負担がかかる。
その意味を込めてそう尋ねたが、モウカザルは首を横に振り、私の言葉を否定した。

モウカザルは私の隣に並ぶと、私の手をとった。そしてそのまま手を引っ張って進んで行くではないか!


「……もしかして、早くジムに挑戦したいの?」


モウカザルはこちらを少し見つめた後、コクリと頷いた。
……仕方ないなぁ。私も早くハクタイシティに行きたいし。


「よし! それじゃあ行こっか!」


モウカザルに負けないよう、私も彼の手を引いてクロガネゲートへと走った。
……私は後ろで少し悲しそうな表情をしたモウカザルに気づくことはなかった。





2021/10/08


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