対 帝国学園



「……早く来すぎたかな」


そう思いながら観客席からフィールドを見下ろす。
帝国学園対雷門中の決勝戦の会場である帝国学園スタジアム。
僕はもう休日に制服を着たくなかったので、私服で来た。
……今まで試合の応援に、制服なんて一度も着てこなかったなぁ。

僕以外誰もいない観客席。
今のうちに良い席を確保しておこう、と場所を移動しようとした。


「その声、苗字か?」


何処からか声がした。
息覚えのある声に辺りをキョロキョロと見渡すが、その声の主はいない。


「フィールドだ」

「!あ、鬼道さんっ」


フィールドを見ると、今入ってきたのか鬼道さんがそこにいた。
観客席の一番前まで階段を駆け下り、鬼道さんを見る。


「早いな」

「早く来すぎた」

「ちょっと待っていろ。そっちにいく」

「え、なんで」


そう尋ねたが、鬼道さんはフィールドから姿を消してしまった。
……どうしよう、このままここで待ってて良いのかな。
あ、何処かに隠れようかな!と、ちょっとしたイタズラ心が芽生え辺りとキョロキョロして隠れられそうな所を探していると、


「……何をしている」

「ひっ!!?」


後ろから鬼道さんの声が。
振り向くと腕を組んでこちらを見ている鬼道さんが。え、早くない!?


「い、いや……なんでも?」

「……まあいい。危ないからな、気をつけろよ」

「危ない?僕そんなにドジじゃないよ」

「そう言う事ではなくてだな……はっ」


鬼道さんが如何にも「しまった」と言いたげな表情をした。


「……何か、隠してることがあるの?」

「…流石に今のは隠しきれないか」


僕の言葉に苦笑いする鬼道さん。
フィールドの方を見つめて、口を開いた。


「……影山の罠を探しているんだ」

「影山、って……確か、帝国学園の総帥…だっけ?」

「ああ。……それを探しているんだ」


罠、か。
なんだか嫌な単語だね。


「あの日、帝国学園が雷門中に練習試合を申し込んだのは……、豪炎寺修也と苗字のデータ収集の為だ」

「データ……僕と豪炎寺さんの」


どうやら雷門中に試合を申し込んだのは影山って人の指示だったらしい。
豪炎寺さんはグラウンドに現れたが、僕はあの試合中には出なかった。


「今思うと、出なくて正解だったな」

「なんで?……なにか、悪い事に使ってるの?」

「わからん。……だが、あの人のやり方を知ってしまった今、お前があの日試合に出ていなくて良かった、と思っただけだ」


鬼道さんはフッと笑ってそう言った。
……最初悪い人なのかなって思ってたけど、本来は優しい人なのかな。


「お前は何処で試合を見るんだ?着いていこう」

「……ストーカー?」

「だから何故そうなる。罠があるかもしれないから付き添うってだけだ」

「別に観客席にはないと思うけどなぁ」

「いや。……徹底的に調べなければならない。これは帝国の問題なのだから」


そう言った鬼道さんは、あの日雷門中をいたぶっていた人には見えなくて。


「……手伝おうか?」

「は?」

「だから、その罠ってやつ。一緒に探すよ」

「しかし……」


ついそう声を掛けてしまった。
言ってしまったのでもう取り返しのつかない。躊躇う鬼道さんに、もう一押し。


「だってこんなに早く来ちゃったんだもん。時間までまだあるし、手伝うって!」

「……」

「それとも、折角の厚意を受け取らないっていうのかい?」

「お前まで危険な目に遭わせてしまう……。ただでさえ今、雷門に危険が及ぶかも知れないと言うのに……」

「大丈夫でしょ!それに、そうなってしまう前に見つけちゃえば良いんだから!」

「…………結構頑固なんだな」

「うーん……。友達が結構頑固者でさ、それに影響されちゃったかな?」

「フッ…、そうか。なら、ありがたくその行為を受け取ろう」


僕の押しに負けたのか、鬼道さんがそう答えた。
因みにその頑固者というのは春奈の事だ。……まあ、鬼道さんに言っても知らないだろうけど。
僕は罠探しを手伝うことになり、鬼道さんから観客席を頼まれた。


「……危険だと思ったら、すぐにやめて構わない」

「分かった。鬼道さんも気をつけてね」


僕の言葉に頷き、鬼道さんは観客席から去って行った。……さて、罠探し頑張りますか!パーカーの袖をまくって、観客席中を回り始めた。





2021/02/20


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