対 秋葉名戸学園



あの後、次々と点を入れるためにシュートを放つメンバー。
……だから、君達には考えるという行動はないのかい?


「苗字!」


彼らの行動に呆れていると、半田さんからパスが。


「俺達じゃ決められない!お前のあのシュートなら…!」


自分たちじゃ決められないからお前に任せる!って奴か。
ついに僕に委ね始めたか。

半田さんが僕にそう言っている間にも、相手選手がボールを奪おうとこちらへ向かってきている。
…まさかあの日、円堂さんに向かって打ったノーマルシュートの事を見て判断したのかな。


「まずは確かめたいことがあるから、シュートはその後ね」


後ろから「苗字!前ッ!!」と円堂さんの声が聞こえてくる。
んもう、そんなこと言われなくたって…


「ちゃんと気付いてるよ」


スライディングで突っ込んで来た相手チームにボールを取られないように、上に軽くボールを蹴った。


「こんな行動パターンが分かりやすい相手チームに、隙なんて見せないよ」


本気なんて出す必要もないしね。
軽々とスライディングを躱し、落下してきたボールを足に乗せてキャッチ。
見つめる先は、秋葉名戸学園側のゴール。


「確かめたい、こと?」

「そ」


半田さんに短く返事し、僕はドリブルを開始した。
僕のレベルに何か感づいたのか、秋葉名戸は大人数でこちらに向かってきた。
……いかにも弱いチームがやりそうな行動だねぇ。


「カオリちゃん、そのボールを渡して…っ!?」


試合前から僕をカオリちゃん、カオリちゃんと呼ぶ人の頭に手をつく。


「飛んだ…ッ!?」

「動きが見え見え。…初心者だねぇ」


飛んだは飛んだけどね。まあ間違ってないかな。
奪われる前に両脚でボールを挟んでジャンプし、相手選手の頭に一回手をついて回転し躱しただけだ。そんなに凄い事じゃないと思うけど。
次々に僕を妨害してくる人を軽々躱し、遂にやってきたゴール前。

後ろには若干ヘロヘロになっている相手チームがしつこく僕を追っている気がする。


「“五里霧中”!」


そして目の前で起こった先程の必殺技。
もし僕の予想が合っているのなら…。


「シュートを打ってはいけません!!」


目金さんの声が何処からか聞こえた。
しかし、


「え、もう打っちゃった」


その言葉が聞こえる前に僕はボールを蹴っていた。
後ろから聞こえてきた「何処に蹴ってんだよ!!」という染岡さんの声を無視し、聞こえてくるであろう音に耳をすませる。

……聞こえた。鉄のような固い何かにぶつかったような“音”が。


「…やっぱり、そうか」

「やっぱり?」


ボールはフィールドの外へ出たのを見て呟く。
いつの間にか隣にいた半田さんが、僕の呟きに反応し隣で首をかしげている。


「可笑しいんだよ。真っ直ぐボールを蹴ってるのに、シュートが決まらないのは」


半田さんにそう言い、真っ直ぐ秋葉名戸学園側のゴールを見る。


「別に、君達のシュートコントロールが下手と言うわけではない。…ならば、次に考えられるのは、あのGKがボールを全て防ぎきっている。……だけど、その割にはあのGKは疲れすぎてる」

「た、確かに…」

ま、向こうの体力がなさ過ぎるってだけなら話は別なんだけどさ。
でもまだ僕には気になる事がある。


「それに、あの砂埃の必殺技。あの必殺技にボールの威力を弱めるような効果は見受けられない。……そう考えたら、あの必殺技は何かを“隠す”為に使っていたと考えられる」


僕はそう言って半田さんの方を見る。
さあ、僕の考えを聞いて何か思い浮かばない?


「そうなれば、次に考えられるのは?」

「考えられるのは?」


……浮かばないか。だって考えるより先に行動に移しちゃうもんね、君等。
呆れながらも、いつの間にか集まっていた雷門中メンバーに視線を向ける。


「___ゴールをずらす、と言うことさ」


僕が答えると同時に聞こえてきた目金さんの声の方へ向ける。
目金さんの声が必殺技で隠れた秋葉名戸学園のゴールから聞こえた。
視界がはっきりし、そこにいたのは…


「見破ってしまいましたよ……!シュートが決まらなかった訳を!」


ゴールポストを手に掴んで。如何にも動かそうとした、という状態の秋葉名戸学園サッカー部数名がそこにいた。
そして目金さんは4番さんのズボンを引っ張っていた。……そこを引っ張るのはやめてあげた方が良いのでは。


「マジかよ!?」

「苗字、いつから気付いて…?」

「流石に最初からは気付いてないよ。…そうだね、松野さんがシュートした時に分かったかな」


……と言うより、ゴールをずらすって反則じゃないの?





2021/02/20


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