微かな光が光輝になるまで



『ひ、必殺技!? 僕、そんなのさっき海川翆に言われて知ったのに、使えるわけないよ!!』


僕はまず、兄さんの言葉を否定した。
だってありえないって自信があったから。けど、兄さんは僕の言葉に頷くことはなかった。


『嘘つくなって。あの一直線に向かっていく光を必殺技を言わずして、なんて言うんだよ』

『萄兄さん、本気で言ってる……?』

『僕には幻が見えたように思わなかったよ』

『修二兄さんまで……』


どうやら僕の発言は誰も信じてくれず、兄さんの方を支持する声ばかりだった。
ということは、本当に僕は必殺技を……?


『名前。お前は無意識に必殺技を使ったんだ。いや、使えるようになった、っていうのが正しいかな』

『無意識に……』

『地道に練習して形にする人が大抵だけど、名前みたいに無意識に使えるようになる人もいるんだ』


兄さんの言葉を聞いたら、そうと思うしかなかった。
僕は必殺技を使えるようになったのだと。

でも、無意識だったから実感がないや。けど、こうして褒められるのは嬉しい。
その喜びに浸っていた時だ。



『俺が、負けた……?』



遠くで海川翆の声が聞こえたのは。
周りにも聞こえたようで、誰もが話をやめて海川翆のもとを向く。

僕も海川翆の方を振り返る。……その背中はどこか寂しそうに見えて。



『ありがとう、楽しかったよ』



試合をした者として、最低限の誠意と感謝を込めて海川翆にそう話しかけた。僕の声が聞こえたようで、海川翆はこちらを首だけ動かして振り返り確認すると、身体ごとこちらを振り返った。


『まさか、必殺技で返してくるなんてさ。予想つかねーよ、そんなの』


けど、俺も楽しかった。
そう言って笑みを浮かべた海川翆は、こちらに手を差し伸べた。僕はその意味が分かると、自分の手を彼の手に重ね、握手を交わした。

その瞬間、周りから拍手が起こった。うぅ、また恥ずかしさがこみ上げてきた……。


『よし、決めた』

『え?』


お互い手を離した後、海川翆は唐突にそう言った。それも、僕を見ながら。
突然のことだったので首をかしげていた僕。そんな僕を見ながら、海川翆は口を開いた。



『次の目標はお前だ、苗字名前』

『は?』

『俺が次に勝つ。だから、お前が次の目標』



えぇ……。内心そう思っていると、後ろから足音が聞こえ、止まったと思えば僕の頭に軽い衝撃が走る。



『なら良い提案があるんだけど、聞きたい?』



その正体は兄さんだった。
兄さんが海川翆に話した内容は、一言だけど何を言いたいのかもう分かった。


『チームに入らないか、でしょ? 兄さん』

『はは、さすがに何回もこんなやり取りしてれば分かってくるか』

『さすがにね』


あはは……と笑う兄さんに苦笑いしていると、海川翆が口を開いた。


『いいのか!? 俺、チームに入りたい! あ、希望のポジションはMF!』


なんかもう入りますって感じの口ぶりだな……。けど、誘ったのはこっちだし。僕も別に入ってほしくないわけでもないし。


『いいよ。その方が君の勝負もしやすいだろうしね』

『ついに名前が自分の意思で勧誘を……!』

『に、兄さん?』

『翆、俺は大歓迎だよ!』


兄さんのテンションが今まで見た中で一番高い。こんな兄さん見たことない……そんなに僕が自分から勧誘したのが嬉しかったのかな。修二兄さんの時もやったんだけどな……まぁ、あの時兄さんはいなかったから、直にみれたことが嬉しかったのかも?



『そんじゃ、遠慮なくお邪魔させてもらうぜ。改めて、俺は海川翆! 気軽に翆って呼んでくれよな!』



こうして新たに『海川 翆』がチームに加わった。
それと同時に、僕と兄さんが作り上げたチームは11人となり、サッカーチームとしても完成した日となった。



***



■人物紹介


海川うみかわ すい

濃い赤色の髪で特徴的な前髪。
自信家だが、傲慢になりすぎてちょっと痛い目に合うこともしばしば。だが、負けはあっさりと認める潔い一面もある。

趣味はサーフィンで、暇なときは海に出かけている。そのおかげで肌は日に焼けている。
某サーフィン好きの沖縄出身サッカープレイヤーとは従兄弟。歳は名前の1つ上。


髪型のイメージは「Fate/stay night」の「間桐 慎二」。
彼をそのまま濃い赤色にして、目つきは明るい感じに、肌は健康的に焼けた感じに、と想像していただければと思います。





2024/04/29


prev next

戻る














×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -