微かな光が光輝になるまで
『ひっさつ……わざ?』
『お前、必殺技もしらねーの?』
当たり前のように言う海川翆の言葉にピキッと怒りがわいてきそうになったけど、知らないことは本当なので我慢した。当時の僕、よく我慢できたよね。
まぁ、今よりは素直な方だったし……あれ、ちょっと悲しくなってきた。
必殺技のことを知らなかった僕は、知っているであろう人物……兄さんの方へと振り返る。
……そこには『ごめん!!!』と言いたげに両手を顔の前で合わせる兄さんがいた。
『……必殺技、そんなにすごいわけ?』
すごいのは分かってた。
この言葉は強がりから出たものだったから、分かっていて認めたくなかった。……この時から負けず嫌いなところが生まれてきたのかな、なんて。昔はすぐに諦める人だったからさ。
『ああすごいさ! 俺はこの必殺技のおかげで、いままで挑まれた勝負に全部勝ってきた!』
負けたことない、ね。
だから兄さんに挑もうとした。俺なら勝てる、という自信で。
……だったら。
『僕が君の連勝記録を止めてあげるよ!!』
それを止めた第一の人になってやる。
彼の言葉を聞いて僕が思ったのが、それだった。
『俺の必殺技に勝つってか? 冗談言うなよ、さっき負けたじゃねーか!』
無理無理!
そう言いたげに笑う海川翆。
……これは煽りだ。煽りは時分のプレーを乱す。常に冷静でいないと、飲まれるのはこっちだ。
これは兄さんに教えられたこと。言葉は難しかったけど、やっていくうちに身体にも馴染んできたし、意味も分かった。
『……』
僕からボールを奪った海川翆は、また僕のゴールへと走っていく。
……うん、やっぱり気のせいじゃない。
『動きはゆっくりに見えるんだよなぁ……』
僕は完全に見えていた。海川翆の動きが、どこを狙えば奪えるのかも。
だったら気を付けるのは、あの必殺技だけだ。さすがに初めて見たものを躱すなんて無理があるもの。
『チッ、しつこいな!!』
僕はスライディングでボールを奪うと、再び海川翆側のゴールへと走る。
……きっと。いや、間違いなく海川翆はまた必殺技を使ってくる。一度だけだけど、二度同じ失敗はしたくない!
『”ウォーターロード”!!』
後ろから聞こえた、海川翆の声。
また必殺技で僕からボールを奪う気だ。
僕は首だけで振り返り、こちらへ向かってくる海川翆を見る。
……今思いつくだけの予想を浮かべろ。落ち着け、さっきみたいに何も見えてないわけじゃない。今も尚、海川翆の動きがゆっくりに見えるのが、その証拠だろ?
……必殺技というものは分からない。今日聞いたばかりのものをすぐに理解なんてできない。
けど、もし僕たちが普通にサッカーをやるプレースタイルの延長戦だとしたら?
……あの必殺技はまっすぐに向かってくる。まるで海をまっすぐ突き進む速いもの……例えば、ものすごく速く走る船とか。
あれってきっと、すぐに方向展開は無理だと思うんだ。方向転換できるまでには多少の時間と距離、そして空間が必要だ。
それを考えたうえで僕が思いついた仮説。それは……
『なに!?』
あの必殺技はまっすぐにしか来ないのでは、というものだ。その予想は的中し、僕の横を海川翆が通り過ぎて行った。
『僕の予想通り!』
『このっ、待てって!!』
海川翆は体制を整えると、再び僕の後ろをついてきた。そして、スライディングでボールを奪おうとしたので、タイミングを見て僕はジャンプした。勿論、ボールも奪われない程度に軽く上にあげてね。
『くそっ、!!』
海川翆はスライディングをしたことで少し離れた場所にいる。……決めるなら今しかない!!
『いっけえええええええっっ!!!』
全力で蹴ったボール。
無我夢中だったけど、これだけは覚えてる___ボールを蹴った時、確かに”眩しかった”ことを。
『ゴール! 名前に1点!』
『じゃあ、名前ちゃんの勝ちだね!!』
『もとよりこの勝負はどちらかが点を決めた時点で勝敗が決まる。だから、空の言う通り名前の勝ちだ』
『よくやったぞ、名前!!』
『よっ、キャプテン!!』
先ほど見えた眩しさが何なのか分からずぼーっとしていた僕は、僕の名前を言う外野の声で我に返った。
そして気づいたんだ……僕が勝ったことに。
『いてっ、』
『なにぼーっとしてんだよ。勝ったんだぞ、お前!』
『もう少し優しくしてよ、剛兄さん……』
いつの間にか僕の周りにはチームメイト、そして兄さんがいた。
なんだか照れるなぁ……そう思っていた時だ。
『お前なんだよ、さっきの光がばーって出たやつ!』
『すごかった、キャプテン』
真太郎と亜久がそんなことを言ったのは。
それって、さっき僕が感じた眩しさのことを言っている?
『あぁ、それはね。名前は必殺技を使ったんだよ』
そう思っていた時、兄さんが爆弾発言ともいえることを言った。
……え、僕が必殺技を使っただって!?
2024/04/29
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