微かな光が光輝になるまで
『名前!』
『ナイスパス、翆兄さん!』
海川翆こと、翆兄さんが加入して数日後。
僕の練習相手はほぼ翆兄さんとなっていた。僕に勝つという目標を成すためには、僕を知る必要があるという考えに至ったらしく、暇さえあれば誘うようになってきた。
ま、それが自分の実力をさらしていることに気づいていないみたいだけど!
『あの2人、本当に仲がいいよね。まるでボクと亜久みたい!』
『そうだね』
『亜久が空の言葉否定してるとこ見たことねーんだけど、本気で思ってるのか……?』
空と亜久、真太郎によってそんな会話がされていることに気づかないまま、翆兄さんの相手をしていた時だ。
『おーい、集まってくれー!』
兄さんの声がグラウンドに響く。
それぞれが練習していた手を止め、兄さんのもとへと集まる。
『自主練はそこまでにして……そろそろやろうか。必殺技の練習!』
僕と翆兄さんの勝負で必殺技の存在を知ったみんなは、自分も自分も、と必殺技について兄さんにせがんだのだ。
そんな兄さんはみんなに必殺技を教えるようになった。
『そういえば名前ちゃん』
『なーに、剛兄さん?』
みんなが必殺技の話で盛り上がっている中、僕に話しかけてきたのは剛兄さんだった。
『翆との勝負で使った必殺技、どうなったんだ?』
剛兄さんはあの必殺技について聞きたかったらしい。
……ふっふっふ。実は聞いてほしかったんだよね!
『よくぞ聞いてくれた、剛兄さん! 実は……すでに完成しているのだ!!』
ふふんっと鼻を鳴らしていると『名前ちゃんすごーい!』と、遠くから空の声が聞こえた。声大きすぎた……。でも褒められるのは嬉しい。
『お、そうだったのか! ならさ、俺に受けさせてくれよ。必殺技がどんな感じなのか知りたいんだ!』
どうやら剛兄さんは僕の必殺技を受けたかったらしい。
……そういうことなら、全は急げってやつだね!
『分かった! じゃあ早速やろう!』
***
『なんかギャラリー多くない?』
それぞれポジションに着いて、軽くウォーキングアップしていると、何故か見られていることに気づく。
『俺たちの会話を聞いてたのかもな。なんたって、名前ちゃんのあの必殺技はかっこいいから見たいって思うさ』
剛兄さんの言葉を聞きながらも、遠くから『名前ちゃんファイトー!!』と空の声が聞こえる。
というか、兄さんも見てる!!
『いつでもいいぞ!』
剛兄さんは準備が整ったようで、僕に声をかけてきた。
……僕も準備は整ってる。
僕は傍に置いていたボールに足を乗せ、剛兄さんを見る。
『……いくよ』
『こいっ!』
ボールを上に蹴り上げた後、僕はそれを追うように飛び上がった。
その後は、ゴールに向かって蹴り落とす……!
『いけっ! ”ホーリードライブ”!!』
蹴った瞬間に魔法陣が現れ、そこから放たれた太い光線と共にボールがゴールへと向かっていく。
『来たな……よし!』
ゴール前にいた剛兄さんは、構えたと思うとその背後に何かを出現させた。あれは一体?
『”ゴーレムアーム”!!』
剛兄さんの動きと共に、大きなそれはボールに向かって腕を振り下ろす。
ボールと剛兄さんがぶつかり合う。接戦の末、勝ったのは……
『えぇっ!? わああああっ!!!』
『すまん、弾いてしまった!!』
僕の方へ勢いよく飛んでくるボール。それを何とか躱した。
……どうやら勝負は僕の負けのようだ。うぅ、自信あったんだけどなぁ。
『二人とも良い動きしてたぞ。それにしても剛、俺に内緒で必殺技を完成させてたとはな』
『ありがとうございます、悠さん。けど、悠さんがくれたアドバイスを形にしただけです。俺だけの力じゃない』
剛兄さんは兄さんの言葉に照れながらも、これは兄さんのおかげだと言う。
……って、そうじゃない。
『剛兄さん、必殺技使えるなんて聞いてないよ!!』
僕、剛兄さんが必殺技を使えるなんて全く聞いてなかったんだから!
そう剛兄さんに言えば、『悪い、悪い』と頭を掻きながら謝ってきた。
『ごめんなー、名前ちゃん。俺の必殺技が名前ちゃんの必殺技に通用するか試したかったんだ』
『別にいいよ。そんなこと気にしてないし!』
それに、僕もまだまだ鍛えなきゃいけないって気づいたしね!
そう剛兄さんに言えば、『ありがとな』と返ってきた。
2024/04/29
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