対 真・帝国学園
「苗字」
「鬼道さん」
「お前に伝えておくことがある」
染岡さんが入っていたポジションで試合再開を待っていると、鬼道さんが声を掛けてきた。
「伝えておくこと?」
「この試合の目的だ。この試合は佐久間と源田の目を覚まさせるための試合なんだ」
「佐久間さんと源田さん?」
鬼道さんから伝えられた内容。それは、佐久間さんと源田さんが影山と不動によって危険な技を使わされているというもの。
その技というのが……。
「”皇帝ペンギン1号”に、”ビーストファング”ねぇ……」
皇帝ペンギン1号
佐久間さんが使う必殺シュート。その名前で気になって鬼道さんに聞いたんだけど、”皇帝ペンギン2号”は”皇帝ペンギン1号”の改良版だという。
何故、”皇帝ペンギン2号”が生まれたのか……それは”皇帝ペンギン1号”が身体に負担が大きい技だったからだ。
ビーストファング
源田さんが使うキーパーの必殺技。こちらは実際に見ていないのでイメージがわかないけど、危険な技であることは間違いない。
「良いか苗字、”皇帝ペンギン1号”を足で止めるなよ」
「なんでですか?」
「”皇帝ペンギン1号”は使用者の身体に大きな負担をかける代わりに、強力な威力を誇ることを伝えただろう? そのダメージは止めた者にも影響する」
「だから足で止めるなって事ですね」
なるほど……僕の”シャイニングエンジェル”に似ているな。使用者に何らかのデメリットを与えるのは共通している。
「分かりました。ありがとうございます、鬼道さん」
鬼道さんにお礼を伝え、話が終わった……と思ったけど、鬼道さんが離れる気配がない。もしかして、まだ僕に用があるのかな?
「……どうしたんですか?」
「影山に着いて行った後の事が気になってな」
「それについては、試合が終わった後に。今は佐久間さんと源田さんの目を覚まさせる、それが1番でしょ?」
こうして今、貴方と話せている。鬼道さんが影山に対して強い感情を抱えているのは知っているから、気になるのも仕方ないとは思ってる。でも、今はやるべきことは、僕と影山の会話内容を共有する事じゃない。
「……そうだな。すまない苗字」
「いいんですよ。あ、最後に1つ。雷門のあの一点は誰が?」
さっきの話からすれば、源田さんは”ビーストファング”を使っているはず。その隙を狙って点を奪ったと言うわけだ。それをやったのが誰なのかが気になっていた。
「染岡と吹雪だ」
「! 2人ということは、もしかして連携でもしたんですか?」
「ああ。互いの必殺技を合体させた技、”ワイバーンブリザード”で決めたんだ」
なるほど。あの必殺シュートの組み合わせは、確かにスピード特化になりそう。GKの反応速度が試される合体技が生まれそうだ。
……それと同時に、不動が染岡さんを狙った理由も分かった。”ワイバーンブリザード”を打たせないためだ。きっと吹雪さんも狙われていたかもしれない。
”ワイバーンブリザード”を打たせたくないのなら、どちらか相方をどうにかすれば良い。……それが、染岡さんだったんだ。
「……ありがとうございます。必ず、必ず点を取ります」
染岡さんのポジションに入ったのだから、今だけは点を取ることだけを考えよう。ただし、源田さんに必殺技を使わせないように、が入るけれど。
「……ああ。頼んだぞ、苗字」
「はい」
僕と鬼道さんの会話が途切れ、しばらく……試合が再開された。
「そのボールをよこしなァ!!」
……来た、不動だ!
僕の視界に入った不動は、スライディングでこちらに突っ込んで来た。……間違いなく僕の足を染岡さんと同じようにダメにする気だ!
「ほっ、」
「何ッ!?」
「風丸さん!」
僕は不動が突っ込んでくる寸前に上へジャンプし、かわす。そして、近くを並走していた風丸さんへパスを出した。
「足をダメにさせようとしたでしょ、魂胆丸見えなんだけど?」
思い通りにいかなかったのか、怒った顔をしている不動。
……怒ってる?
怒ってるのはこっちのほうなんだけど……!
「それに、怒ってるのはこっちのほうさ……染岡さんを怪我させたこと、許さないから!」
染岡さんを無理矢理フィールドから退出させたこと、本音を言えば申し訳ない気持ちでいっぱいだ。僕だってあんな強く言いたかったわけじゃない。
けど、そうでもしないと……染岡さんは自分を犠牲にする気だった。そんな事させるわけがないでしょ……!
「来い、”ビーストファング”で止めてやる……!」
染岡さんの気持ちのためにも、このポジションを任せられた僕が必ず点を取り、この試合に勝利へ導く!
「風丸さん、僕にボールをください!」
「けど、まともに打ったら源田が!」
「大丈夫、必殺技は出させません。お願いします、僕にボールを!」
大丈夫です、この試合をする理由はちゃんと分かってます。
源田さんに”ビーストファング”を打たせないで点を取りますから……!
「風丸、苗字にパスを出せ!」
「鬼道……分かった、頼むぞ苗字!」
風丸さんのパスは、誰にも阻まれることなく僕の元へ来た。……ありがとうございます、鬼道さん。そして、僕に託してくれてありがとうございます、風丸さん。
「”光のストライカー”のシュートだろうと、”ビーストファング”は敗れない!」
僕はペナルティアーク内で一度ボールを止める。DFが止めない所を見る限り、打たせたいらしい。あの不動も僕の足を狙いに来ない。……よほど源田さんに”ビーストファング”を使わせたいらしい。
「いいや、貴方は負ける。……僕の技を捉えられずにね!」
光の速さは”一瞬”なんだから
僕は上空へボールを打ち、それを追いかけるように飛び上がった。……これは必殺技に必要な順序なんだけど……。
「! どこに行った!?」
「上だ、バカヤロウ!!」
光を纏わせるには、僕自身も速くならなければならないからね。一瞬でも見逃したなら、それはもう”隙”だ!
「気づくのが遅いよッ! ”ホーリードライブ“!!」
力強く蹴り降ろしたボールは、聖なる光を纏いながらゴールへ飛んでいく。……気付いた時にはもう、必殺技を出す時間はない。いや……。
「っ!?」
ボールを捉えることすら出来ないかもね。
僕が打つボールは”光”なんだから。
地面へ着地すると同時に、ホイッスルが鳴り響いた。それは僕が点を決めたことで、雷門に追加点が入った事を指していた。
2-1
この状況をキープしたまま勝てば、雷門の勝ちだ。
2023/10/30
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