対 真・帝国学園
真・帝国学園のキックオフで試合再開。
……したんだけど。
「僕のマーク多過ぎ……!」
先程点を取ったからなのか、僕へマークが集中している。今点を決められそうな人だからってことなのは分かるけどさぁ……!
「そうそう。そんな感じで逃げられないようにしておけよ」
遠くから聞こえる不動の声。薄々感じていたけど、あいつがゲームメイクしているのか?
センスなさ過ぎ……あの人の指示でサッカーしたくない。
そう思っていた時だ。
「! 木暮、危ない!!」
ボールを持っていた木暮に近付く影。それは、先程まで視界に入っていた不動だった。あいつ、いつの間にあんな所まで移動したんだ?
いや、それは後回しだ。あのスライディングで染岡さんは足を負傷した。かわせなかったら木暮も染岡さんと同じように……!
「え? うわあああぁっ!!?」
僕の声に反応した木暮はこちらを振り返った。同時に不動の存在に気づいた木暮は慌てた様子で不動のスライディングをかわした。
けど、ボールは奪われてしまった。
……いや、今は怪我人が増えなかったことが重要だ。ボールはまた奪い返せばいい。
だからさっさとこのマークから逃れたいんだけど……!
「チッ」
体格の大きい人を配置させたのはいいね。おかげで躱すのに必要以上の体力を持って行かれちゃうもん。それにしてもしつこいな……!
「!」
ボールの位置を探していて……見つけた時。
「うわああっ!!」
「一之瀬!!」
不動が一之瀬さんに向かってボールを打っていて。
「皇帝ペンギン……ッ」
跳ね返ったボールは、佐久間さんの元へ転がっていた。
そして……既に佐久間さんは必殺技の構えに入っていた。
「止めろおおおおおおッ!!」
「1号!! があああああああッ!!!」
佐久間さんが”皇帝ペンギン1号”を打つと同時に、痛みで叫ぶ声が聞こえる。……その声が痛々しいもので、耳に響く度に恐怖がわき上がってくる。
「うわあああああああああっ!!!」
……痛みに耐える声が、僕の恐怖を煽るんだ。
ダメだ、耐えろ……1番苦しいのは佐久間さんだ……!!
「っ、!!」
マークは簡単に抜けられた。
佐久間さんがシュートを放ったからだろう。
「逃げるわけにはいかない!」
「円堂くん!」
「止めてッ!!!」
けど、点を入れてしまえば引き分けで終わる。勝って終わらなければ、この試合の意味がない!
……最後の砦、円堂さんにシュートが向かって行く。あの体勢、円堂さんは”マジン・ザ・ハンド”を使う気だ。けど、あれじゃ間に合わない!
「ぐああああ!!」
そう思っていたとき、円堂さんとボールの間に割って入ってきた人がいた。……それは、鬼道さんだった。
「バカ、鬼道さん!!」
貴方が言ったんじゃないか、”皇帝ペンギン1号”をまともに受けたらダメージが、って!!
……けど、鬼道さんがこの試合に掛ける気持ちを聞いてしまったから、円堂さんを庇って前に出るのは当然とも思ってしまった。
「お兄ちゃんっ!!」
春奈の悲鳴が聞こえると同士に、鬼道さんが弾き飛ばされる。
「”マジン・ザ・ハンド”!!」
……そして、後ろから円堂さんが必殺技を展開したのが見えた。
「負けてたまるかぁ!!」
円堂さんは”皇帝ペンギン1号”を止めた。
……鬼道さんが間に入って時間を加勢でくれたから、間に合ったんだ。けど、鬼道さんが入ってこなかったら点を入れられていただろう。
二人掛かりで、しかも”マジン・ザ・ハンド”で止める事が精一杯。……なんて技なんだ、”皇帝ペンギン1号”は。
「鬼道さん、円堂さん! 大丈夫ですか……?」
「苗字。俺も円堂も大丈夫だ。だが……っ」
鬼道さんが視線を向けた場所にいたのは、佐久間さんだ。膝を付き四つん這いになっていて、明らかにダメージが大きいのが分かる。立つのも精一杯ってこと……?
「鬼道さん、”皇帝ペンギン1号”は今何回ですか?」
「……2回だ」
そう言って鬼道さんは僕の横を通り過ぎ、佐久間さんの元へと歩いていった。
……そもそも必殺技を使う事自体、体力を多く持ってかれる。”皇帝ペンギン1号”はかなり消費が激しく、そして身体に負荷がかかる。
今は2回使っていると鬼道さんが言っていた。限界が何回かは分からないけど、あの状態を見るに、次打てば佐久間さんは持たない……!
「今は先制してるんだ、守りに入った方がいい」
僕だってボールを止める必殺技が使えるんだ。いや、兄さんが何でも出来たように、僕も攻めだけではなく守りもできるように努力してきた。
そして、実際にあの試合……ジェミニストームとの試合で貢献したんだ。”ライトプレッシャー”で。
「”ライトプレッシャー”は最終手段だ。1番は佐久間さんに”皇帝ペンギン1号”を打たせないで試合を終わらせることなんだから」
試合再開後の動きをイメージしながら、僕は自分のポジションへと戻った。……その後に起こることなど、考えもせず。
2023/10/30
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