対 真・帝国学園
「壁山、どうした!?」
悲鳴の主は壁山だ。突然の壁山の悲鳴に我に返る。
そして、反射神経で壁山の方へと振り返った。
「木暮君が酷いんッス……これ、見てくださいよ〜〜〜っ!」
手鏡を見ていた壁山がこちらを振り返る。
……一瞬の静寂。数秒後、キャラバンは笑い声に包まれた。
「居眠りした隙に……って、えぇっ!? なんでみんな笑うんスかぁ!?」
「わっ、わっ……笑ってなんかないよ……だははははっ!!」
みんなが笑う中、僕は壁山を見つめてある事を思い出していた。
***
『あああっ!!? 名前、また俺の顔に落書きしやがったな!?』
『へへ〜ん! 寝てた”ハル”が悪いんだよ〜っだ!』
その映像に映るのは、ヒロ君よりも濃い赤色の髪を持つ少年。その少年と幼い頃の僕の声が聞こえた。
少年の顔には落書きだと思われる黒い線があった。
『わ、私の顔にも落書きが……』
『あ、起きた? おはよ〜、”ふーすけ”!』
次に映像に映ったのは、白い髪の少年だ。その少年にも、先程の少年と同じく落書きだと思われる黒い線が。
『『名前!!!』』
『ひゃあぁ、にいさああん!!』
『イタズラはほどほどにしろって言っただろ、名前』
『うわああんっ、ここに私の味方がいない!! 誰か助けて!!』
***
「……はっ!」
みんなの笑い声が聞こえる中、我に返る。
……僕が思い出していたもの。それは、あの孤児院で過ごした何気ない日常だった記憶。
「……」
未だに手元にあるジャケットを強く握りしめる。
……ヒロ君に会ったからなのかな。あの場所のことを思い出すのは。
ヒロ君に言われたから大丈夫なのに。みんなは宇宙人じゃない、レーゼとリュウちゃん、デサームと修兄さんは別人だって、ヒロ君がそう言っていたじゃないか。
……だけど。
「……っ」
やっぱり、この目で見ないと不安だよ。
ヒロ君を信じたいけど、もし違ったら……?
ヒロ君が知らないだけで、本当は……なんてこともあるから。どうしても自分の目で見て確信したいんだ。
「……どうしてるのかな、2人は」
炎のように熱くて、明るい”はる”。
氷のような落ち着きで、冷静な”ふーすけ”。
……会いたいな、2人に。
「……」
懐かしい記憶に思いを馳せていた僕を、誰かが見ている事に僕は気づかなかった。
僕がまた自分の意識に集中している中、木暮が春奈に怒られていた事や、春奈が木暮の報復(?)に合っていたことなどに気づかなかったほど、僕は記憶に縛られていた。
……春奈の悲鳴に近い怒鳴り声を聞くまで。
2023/8/17
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