対 真・帝国学園



木暮が正式にイレブン加入したところで、キャラバンは目的地である雷門へ再出発。


「なぁ苗字、ごめんってば」

「……」

「なんで目を合わせてくれないんだよ、苗字〜っ」

「暫く話しかけないでください……」

「相当やられてるな、これは」


やれやれ、と言った様子の染岡さんの声が隣から聞こえる。
先程の件で顔を上げる事ができなくなってしまった。円堂さんに対してではない、先程の羞恥を見られた事である。恥ずかしくて顔上げられるか……!

因みに何故円堂さんが転んだのかというと、木暮が円堂さんの靴紐を結んでいたからである。


「そろそろ許してやれよ、流石に円堂が可哀想だ」

「無理な者は無理!!!」


染岡さんの言葉にそう叫んでいると、電子音が響く。それは通知音だった。その音が聞こえた方へと振り返れば、それは瞳子姉さんの携帯によるものだった。


「響木さんからだわ。……影山が脱走し、愛媛に真・帝国学園を設立した?」

「なんだって!?」

「彼奴、まだ性懲りもなくそんなことをやってんのかよ……!」

「しかも、真・帝国学園だって?」


瞳子姉さんが内容を読み上げた。
その内容は、なんと影山が脱走して、新しい帝国学園を建てたというものだった。

僕の視線は、自然とある人の方へと移った。


「鬼道?」


それは鬼道さんだ。鬼道さんの隣に座る塔子さんは不思議そうな顔で、鬼道さんの様子を見ている。


「よし、愛媛に行こう!」

「ああ! 影山の野郎と、していることをぶっ潰そう!」

「そうよ! 彼奴を許しちゃいけないわ!」


雷門中は影山の恐ろしさと、その非道さをその身で体験している。だからこそ、影山を止める事にみんな前向きだ。

僕はそれを全て端から見ていただけだから、彼らほど影山に対し憎しみはない。全くない、と言えば嘘になるんだけどね。


「なあ、影山って中学サッカー協会の副会長だったんだろう?」

「そうだ。そして、帝国学園の総帥だった……俺達のチームの」

「そんな人、何故倒さなきゃならないんだ?」


塔子さんと鬼道さんの会話を、僕は黙って聞く。
そっか、塔子さんは知らないのか。影山が何をしたのかを。


「勝つ為には手段を選ばない奴だったんだよ!」

「それも自分の手は汚さず、人の手を使って相手チームを蹴落とそうとする」

「きったねーな……」

「ああ。卑怯が服を着て歩いているような男だ」


塔子さんも理解したようだ、影山という人物がどれだけ非道なのかを。
みんなから影山に対する言葉を聞いて思うのは、怒りだ。みんな、影山に対し怒りの感情を持っている。


「それだけじゃない。彼奴は勝つために、神のアクアを作りだした!」

「神のアクア?」


鬼道さんの口から発せられた単語に反応してしまう。


「人間の身体を根本的から変えてしまうものさ、神の領域まで」


……神のアクア
それを聞いて頭に浮かぶのは、照美さんの顔だ。あの人達も被害者だ、影山という加害者の。


「結局それが、影山の逮捕に繋がったのよ」

「そいつが脱走したんだ!」

「またサッカーを使って、何か企んでいるのか……!」


みんなが影山を敵視している。だけど、この中で1番影山を敵視しているのは……間違いなく鬼道さんだ。

影山の非道さをみんなほど体験していない僕だけど、大好きなサッカーを悪いことに使おうというなら……あなたは僕の敵だ。


『はい。……悔しいとは、こんなにも苦しいのですね』


ふと、照美さんの言葉を思い出す。
あの時の彼の表情も一緒に思いだしたからなのか、影山に対する怒りの思いが強くなっている気がする。

彼の為にも、影山を止めるんだ。
そう自分の意識に集中していたときだった。


「うわあああっ!!?」


後ろから悲鳴が聞こえたのは。





2023/8/17


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