対 イプシロン



僕達が駆けつけた時、既にイプシロンと漫遊寺中サッカー部は戦っていた。初めは優勢に見えたが……中々決まらないゴールに、強力なシュート。更には態とボールを当てているようにしか見えないパス回し。……いつの間にか漫遊寺中サッカー部は全員地面に倒れていた。


「っ、」


……その光景が、以前自分がやってしまった”あの出来事”と重なる。まずい、立ちくらみが……周りの声が聞こえない、目の前がぼやけて……っ。


「っ!?」

「大丈夫か、苗字」

「き、鬼道さん……」


ふらつく身体を誰かが支える。それは鬼道さんによるものだった。


「顔色が悪い。……思い出したのか」

「っ、隠せませんでしたか……」


鬼道さん、円堂さん……そして、豪炎寺さんにしか話せていない僕の秘密。……大罪と呼んで良い過ち。それを鬼道さんは察してくれたのだろうか。


「おい苗字、大丈夫か? 顔色悪いぞ」

「すみません塔子さん……でも、少し休めば出られますから」


私を支える鬼道さんを見て、ただ事じゃないと思ったのか、塔子さんを初め段々と周りに人が集まってくる。


「ごめんなさい名前、私が無理矢理付き合せちゃったから……」

「気にするなって、春奈」

「でも……」

「苗字、お前は休んでろ」


意地でも出ようとしたのだが、鬼道さんにベンチに座らせられてしまった。……出るなって行動でも言われてしまった。


「でも、どうするんスか? 目金先輩は怪我で動けないし……」


確かに……僕が出られないとなると控えは目金先輩になるのだが、残念ながら怪我を負っているため出られない。
となると……10人でやるしかない?


「だったら10人で戦うまでだ!」

「じゅ、10人でぇっ!!?」

「このまま彼奴らの好きにはさせられないだろ!?」

「それはそうでヤンスが……」


ま、円堂さんならそう言うと思った。
けど、11人と10人って数字だけで見ればそう差はないって思えるけど、実際は違う。1人いない所のカバーが必要だから、必要以上の体力が求められ、削られていく。

それに、イプシロンはFF優勝候補と言われていた漫遊寺中サッカー部をいとも簡単に倒した。10人で戦っていい相手じゃない。


……やっぱり僕も出る。
そう言おうとした瞬間だった。



「___11人目ならいます、木暮君が!」



凛とした声が聞こえた。それは春奈の声だった。
そして、春奈が手を指す方向にいるのは……木暮だった。


「こ、」

「「「木暮〜〜〜〜っ!!?」」」


……ま、当然の反応だよね。
なんだったら塔子さんにとって木暮の印象マイナスに振り切ってるだろうし。


「木暮君だってサッカー部の一員です!」

「でも補欠だろ? 大丈夫かよ、そんな奴入れて」

「下手にウロチョロされると、代えって邪魔になるし……」


確かに木暮は漫遊寺中サッカー部では補欠だ。それに加え、練習は一度も出ていない。染岡さんと土門さんの反応が微妙なのは当然のこと。


「そんなことないです! 木暮君なら大丈夫です! ……だからお願いです、お願いします!!」


周りの反応は微妙……というより、受け入れている人は少なそう。
けど、貴方は違うよね?


「っ、お願いします、キャプテン!」

「……分かったよ、音無」

「「「ええぇっ!!?」」」


円堂さん。貴方なら春奈の想いを受け止めてくれると思った。
……どうやら春奈は木暮に対して何か強い思い入れがあるらしい。まだ出会って数日なのにね?


「いいですよね、監督?」

「……貴方はどう思う、名前」


円堂さんの問いに対し、瞳子姉さんは僕に問いかけた。どうやら彼が僕の代わりになれるのか知りたいらしい。……この感じだと、夜中ぶっ通しで練習付き合ってたのバレてるなぁ。


「僕は賛成だよ」

「苗字まで!!?」

「実は、さっきまで木暮と手合わせしてたんです。……僕の完璧な代わりは無理だけど、役には立つと思いますよ?」

「あいかわらずの自信家っぷり……」


そんな誰かのツッコみはスルーして、瞳子姉さんに「どうかな?」と問いかけた。どうせバレてるんだ、判断材料にしちゃってよ。


「……好きにすればいいわ」

「っ、ありがとうございますっ!!」


瞳子姉さんの返事に春奈は笑顔を浮べ、勢いよく頭を下げた。許可が下りたことが嬉しくてたまらないのだろう。


「さ!」

「い、いや……でも、俺……っ」

「何怖気着いてるの! みんなを見返すチャンスじゃない!」

「でも……、だって……」


木暮の様子がおかしい。さっきまでの威勢の良さはどこにいったんだろう。生意気が消えて、本当に怯えているように見える。
……それでも春奈は声を掛けた。



「___大丈夫よ、木暮君なら。私、信じてるから」



春奈は誰かに言葉を掛ける時、心の底からそう言っているから、スッとその優しさが染みこんでいくんだ。……その所為で僕もすっかり春奈に絆されたんだよね。絆される、はちょっと変な言い方だったかな。

でも、そう言っちゃうくらいに春奈の言葉は心に響くんだ。……だからきっと、木暮にも届いてる。


「俺を、信じて……?」

「ええ、信じてるわ。木暮君ならきっとやってくれるって」


まだ踏ん張りが着いてない様子。……やれやれ、ちょっと関わった僕からも励ましの言葉、かけてあげよっかな。体調崩してしまったばかりに、僕の代わりで出ることになっているんだし。

……あんな顔されたら、流石の僕も申し訳ないなって思っちゃうって。


「木暮」

「!」

「さっき言うの忘れてたけど、木暮の動き悪くなかったよ。もう少し上手だったら、僕からボールを奪えたかもね〜」

「なんで煽るの名前……」


ジト目で僕を見る春奈は置いておいて。


「その実力、ちょっと認めてるから次は本番で見せてよ?」


そう言って僕が指を指したのはフィールド。……僕自身はさした指の先を見る事ができなかったけど。

でも、君がイプシロン相手にどこまで戦えるかは……正直興味があるな。なんてね。





2023/3/27


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