邂逅! イタズラ好きな捻くれディフェンダー



「えっ!?」


漫遊寺中をフラフラと歩いていると、遠くで怒鳴り声らしきものが聞こえた。


「だ、誰かいるの……?」


ビビりながらも声が聞こえた方へ歩いてみる。

……怖いの苦手なら行くなよって?
うるさいなぁ、気になるんだから仕方ないでしょ。


「……ここから話し声が聞こえる」


着いた場所から話し声が聞こえる。……というか、聞き覚えのある声だ。開いてる出入り口からそっと中を覗いてみると……。


「あ」

「あっ……えっと、どうも」


今日初めましての男の子、木暮と目が合った。そして、こちらを振り返った春奈と目が合った。


「え、名前!? なんでここにいるのよ!?」

「えっと……眠れなかったから?」


嘘は言ってない。そう思いながら春奈の問いに答えた。


「あ、丁度良かった! ねぇ名前、手伝ってほしいことがあるんだけど」

「え?」


顔の前で手を合わせ、良い笑顔でそう言う春奈。とりあえず何を手伝ってほしいのかを聞くことにした。



***



「ボールを奪えばいいんだな!?」

「ええそうよ」

「いや、やるのは僕なんだけど……」


時刻は朝。まだ日が昇りかけって時間だけど。
春奈が僕にお願いしてきたものは、木暮の実力を見たいから相手をしてくれってことだった。

ルールは単純。木暮が僕からボールを奪えたら勝ちって内容だ。
……なんで僕が相手するのかって?
春奈はサッカーできないからだ。決してバカにしているんじゃなくて、練習に参加したことがなくても木暮はサッカー選手なのだ。そんな相手を初心者ができるわけがないのだ。

因みに、僕が来なかったら相手を古株さんにお願いする気だったらしい。その古株さんは審判をしてくれるようだ。


「女が相手なんて、楽勝だな」

「お、良く僕が女だって分かったね? なんでそう思ったの?」

「ど、どうだっていいだろ!」


そんな会話をしながら互いにウォーミングアップを進める。急に身体を動かしたらよくないからね、ちゃんと準備運動しないと。


「さて、僕は準備できたけど、そっちは?」

「いつでもいいぜ」


僕と木暮が準備完了したということで、古株さんが「初めッ!」と合図を出した。


「うりゃああああああッ!」

「! よっ」

「何!? うおおおおおおおッ!」

「ほっ」

「えぇっ!?」

「ほらほら、さっきの威勢はどこにいったのかな〜?」

「まだまだッ!!」


こいつ、本当に練習に参加したことないの?
この動き……練習したことがない奴の動きじゃないんだけど。ま、奪わせはしないけどね!


「僕からボールを奪うんだろ〜?」

「からかいやがって……!」


久しぶりにこんな1対1をやってるけど、たまには良いかもね。そう思いながら春奈達に止められるまで僕達はボールに夢中になっていた。



***



「あの子、本当にサッカーしたことあるのかしら……それとも、相手が悪かったかしら……」


古株の隣で名前と木暮を見ていた春奈がそう呟く。後半の内容については、名前がサッカープレイヤーとして経験が長いからという理由の呟きである。
その光景を見て、春奈は段々と人選を間違えたと思い始めていたのだ。


「あの2人すごいね。もう2時間も経ってるのに全然スピード落ちてないよ。それにあの少年の動き、中々できるものじゃないね」

「え?」


古株の言葉に春奈は木暮へと視線を移す。変わらず名前からボールを奪えず躱されているが、その後の動き……崩れた体制を瞬時に戻しているのだ。
自分が浮べていた動きと外れたとき、大体の人は予想外の動きに対応できず戻すまでに多少時間が掛かる。それが木暮にはほぼないのだ。


「あの動き……どこかで」


少年の動きに春奈は見覚えがあった。そして、思いだした。少年の動きは彼女が漫遊寺中サッカー部の元へ向かってる途中、修行として掃除をさせられていた木暮がしていた動きそのものなのだ。

つまり、木暮は気づいていないだけで無意識にサッカープレイヤーとしての才能を開花させていたのだ。


「おーい! そろそろ休憩しないか?」

「ドリンクとタオル、用意したわよ」

「もうそんなに経ってた? 気づかなかったや」

「まだやれる!!」

「それは僕もなんだけど、休憩は大事だよ。一旦休んでまた再開しようよ。……負けたままなの悔しいんでしょ」

「ぐぬぬ……!」


彼らがそんなやり取りをしている間、”彼ら”はやってきた……漫遊寺中サッカー部の元へ送った予告通りに。



邂逅! イタズラ好きな捻くれディフェンダー END





2022/10/2


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