邂逅! イタズラ好きな捻くれディフェンダー
「……眠れないのか」
「へ? ま、まぁ……」
眠れないのは本当だ。嘘じゃない。
……初めはレーゼのことで眠れなかったけど、今は別の理由で眠れなくなった。だって、春奈の問いに鬼道さんが否定してくれないから……!
「怖い夢でも見たのか?」
そう言って僕の隣に座った鬼道さん。……距離が近いように感じるのは気のせいだよね?
「な、なんか鬼道さんが優しい」
「俺はいつも優しいだろ」
「えぇ? ……うがッ!?」
鬼道さんの返答に疑問の声を出すと、無言で頭にチョップが降ってきた。言わずもがな、鬼道さんの仕業である。
「人が心配していると言うのに何だその態度は」
「ほら! もう優しくない!!」
あ、大きな声出しちゃダメだ……みんな寝ているんだから。そう思って咄嗟に口に手を当てる。
「あ、明日も早いですし、そろそろ寝ませんか!?」
とりあえず話を終わらせようと鬼道さんにそう言葉を掛けた。……掛けたんだけど。
「……そんなに俺が嫌いか」
まさか、そんな言葉が返ってくるなんて思わないじゃないか。驚いて鬼道さんの方を振り返った。
「……!」
さっきよりも近距離にある鬼道さんの顔。いつもは見えないゴーグルの奥にある赤い瞳が見える。
「俺にいじられると春奈に言いつけているそうじゃないか」
も、もしかしなくてもさっきの事だよね!?
まさか僕がいたことに気づいてる……!?
「どうなんだ、苗字」
無意識に遠ざかっていた身体。しかし、それに気づいてるらしい鬼道さんはどんどん近付いてくる。
「き、」
「き?」
「嫌いでは……ない、デス」
「遠慮しているとかではなく、か?」
「遠慮なんてすると思いますか? この僕が!」
「……そうだな。お前はそういう奴だったな」
なんか失礼な事を言われたけど、とりあえず嫌いではないことを分かって貰えたようだ。離れていく鬼道さんを確認しホッとする。
「早く寝るんだぞ。……あと」
「はい?」
「顔。真っ赤だぞ」
そう言ってニヤリと笑った鬼道さんは、マントを翻しながらキャラバンへと歩いていく。バクバクなる心臓を感じながら自分の顔に手を当てる。
「あつ……」
この暗い中、なんで僕の顔が赤いって分かったんだろう……しかもゴーグルもしてるのに。
「鬼道さんの所為だもん……」
僕が耐性ないこと分かってやってるんだ……!
逆に眠れなくなったんだけど!!
「はぁ……。もうちょっと歩くか」
鬼道さんの気遣い(だと思う)言葉を無視して、僕は再び歩く事にした。とりあえず適当にふらついてみよっと。
2022/10/2
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