邂逅! イタズラ好きな捻くれディフェンダー



「いつか聞きたいと思っていたんだが、どういう経緯で苗字と知り合ったんだ?」

「私と名前はクラスが一緒で、知り合ったのもそこからよ」


春奈と僕が知り合った時、か。
僕は入学と同時に東京に来て、当然周りは知らない人ばかり。兄さんのお陰で割と堂々とした性格になったけれど、クラスメイト……特に女子とは気が合わないだろうなと早々に理解した。


兄さん曰く、僕はサバサバしているらしく、普通の女の子とは真反対な性格らしい。とは言っても、兄さんの言葉は納得できる部分がいくつかあった。

まず僕は、普通の女の子だったら好きだろう恋愛話が苦手だ。正直どうでもいいと思ってる。だって僕は恋よりもサッカーな人だからだ。

あと、兄さんは女の子にモテモテだ。クラスメイトは勿論、兄さんが好きだという女の子から僕は嫉妬の目を向けられていた。

おかげで小学生時代を過ごした小学校では女の子の友達がいなかった。でも僕はそれでも気にならなかった。


サッカー友達である男の子が地元にいるんだけど、その子達全員と小学校が一緒だったこと、兄さんがいたこと。その2つがあったから、女の子の友達がいなくても苦ではなかった。だって、楽しければそれで良かったんだから。


でも、雷門には僕と言う存在を知っている人は誰1人いない。周りから見ればただの女子中学生だ。いつも通りに過ごせば浮くと思った僕は、いつもなら下ろしている髪を結んで、少しでも女子らしい格好を学校にいる間だけでも意識した。

けど、普段しない事をやっていることに対するストレスや、知らない人ばかりの空間だったことで、いつもの調子を出せず黙り込む日々を送ってた。
……春奈に声を掛けられるまで。


「名前って結構ズバズバ言ってくる子なんだけど、入学当初はすっごく大人しくて……ずっと1人だったんだ」

「……想像できないな」

「みんな雰囲気が怖くて近付けなかったみたいで……私も最初はそうだったの。でも、話して見たらそんなことなくて、ちゃんと話を聞いてくれるし、こういうのはどうって意見を出してくれたり……とても話しやすいの」

「相談事に強いのか。意外だ」


鬼道さんは僕のこと何だと思ってるんだ……。
そう思いながらも、春奈から告げられる自分の印象にちょっと照れる。


「前にね、お兄ちゃんの事で相談したことがあったの。その……フットボールフロンティア予選で雷門と帝国の決勝の日なんだけど」

「……あぁ」

「あの時ね、お兄ちゃんの事を伏せて話したんだけど……名前、私とお兄ちゃんが兄妹だってこと気づいてたのかな」

「それは違うな。俺達が兄妹だと話した時、盛大に驚いていたからな」


あぁ……鬼道さんの前で思いっきり似てないって言っちゃったヤツか……。
鬼道さんの言ってることが鬼道さんの家にお邪魔したときの事だと分かり、思わず苦笑いを浮べた。


「嫌いだと思ってても、心の何処かではやっぱり嫌いになれない。それはまだ好きなんだってことだよ、って名前が教えてくれた。だから一歩を踏み出せて……お兄ちゃんとこうして話せるようになった」

「そうだったのか……。苗字には感謝しないとな」

「うん!」


……未だに言えてないんだけど、初めは2人が兄妹だと思わず、元カレ元カノだと思ってたんだよね……。
2人とも気づいてないみたいだけど、鬼道さんにはその内バレそう……。


「お兄ちゃんは名前のこと、どう思ってる?」

「……どうした、薮から棒に」

「偶に名前からお兄ちゃんにいじめられるって言われるから……」

「ほう。苗字はそう思っていたのか」


だってどう見たっていじってるじゃないですか!!
なんか僕にだけ厳しいし、絶対気のせいじゃないもん!!


「もしかしてお兄ちゃん、名前のこと……!」


ちょっと待て、春奈。どうしてそっち系の話になる!?
絶対違うでしょ!?


「……さあな。好きに捉えろ。さ、そろそろ戻ろう」


どうしてそこで否定してくれないの!?
春奈が面白がるでしょ!?

口に出さないで心の中で叫んでる僕を誰か褒めてほしい。ずっと口に出したくてしかたないんだって……!
そう思っていると、鬼道さんがそろそろ戻ろうと口に出した。
やばい、テントに先に戻らないと僕がいないことがバレる。

鬼道さんと春奈がまだ喋っているのを確認して、物音を立てないようにその場を去った。



***



「……とは言っても、逆に目が覚めちゃった」


春奈と鬼道さんより先にキャラバンの元に戻ってきたが……やっぱり眠れない。2人の会話を聞いていたからなのか、春奈から告げられた内容が強烈だったからなのか、あの夢の内容を思い出せなくなっていた。
でも今度は、最後に聞いた鬼道さんの返答が頭に残って眠れない……。

というわけで、僕は今近くに設置されていたベンチに座っていた。
ボールを触りたいけど、残念ながらキャラバンの中。取りに行けない。こうなるんだったら携帯持ってくるんだったなぁ……携帯はテントの中である。


つまり何が言いたいのかというと……暇なのだ。
眠れる自信はないけど、寝袋に入って目を瞑っていれば寝落ちできるはず。そう思い立ったら行動。ベンチから席を立とうと腰を上げようとした時だ。


「こんな時間に何をしている、苗字」

「!?」


突然聞こえた声に思いっきり肩が跳ねる。
……とは言っても、さっきまで聞いていた声なんだけど。


「き、鬼道さん!? ビックリしたぁ、脅かさないでくださいよ」

「それは悪かったな」


向こうは僕が普通に驚いているだけだと思ってるだろうけど、実際は違う。
さっきまで盗み聞きしてたことがバレていないか、僕はそこが気になっていた。





2022/5/7


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