対 ジェミニストーム
『名前ちゃん、泣かないで』
『だって……みんなと、リュウちゃんと離れるなんて、寂しいよ……!』
『じゃあこの諺、覚えておいてよ』
じいちゃんとばあちゃんが、僕と兄さんを迎えに来たとき。
孤児院を出るまであと何日の時だったもう覚えていない。
だけど、リュウちゃんに言われた言葉は……いや、諺は今でも覚えている。
『”金石の交わり”。意味は……金石のように固く結ばれたオレ達の仲は、いつまでも変わらないってこと!』
『えっと……?』
『あー……難しかったかな。分かりやすく言うと……離れていてもオレ達はずっと友達で、家族ってこと!』
『私のこと、忘れない……?』
『忘れる訳ない、ずっと覚えてる! 大きくなったら、名前ちゃんに会いに行くよ』
『絶対? また遊んでくれる? サッカーしてくれる?』
『勿論!』
そう笑顔で言っていたリュウちゃんの目尻には涙が溜まっていて。
僕を元気づける言葉も震えていて。
でも、確かに僕はその言葉に元気を貰ったんだ。
『じゃあ、みんなを呼んでサッカーしに行こっか!』
『うん……っ!』
小さかった僕の手を握るリュウちゃんの手は、とても温かくて___
***
「……う、うぅ……」
「! 名前っ」
「うおっ!?」
眩しい光に目を閉じようとした瞬間、何かに飛びつかれた。
お陰で眠気がとれた。
「よかったぁ……貴女、急に倒れたから心配で……!」
僕に飛びついてきたのは春奈だったらしい。
春奈の瞳には涙が溜まっていた。
「え……そうだったの? ごめん……」
「まったく……迷惑掛けさせんなよ」
「染岡さん……すみません」
それより……ここどこ?
見慣れない部屋にキョロキョロと辺りを見渡す。
「ここは?」
「白恋中の保健室だよ」
僕の問いに答えたのは吹雪さんだった。
白恋中……あれ、どうして白恋中にいるんだっけ。
『これが本当の吹雪四郎なんだ、よろしく』
『白恋中の者達よ、お前達は我がエイリア学園に選ばれた。サッカーに応じよ』
『決勝点は譲ってやる。決めろ!!』
『我々はセカンドランクにすぎない。我々の力など、イプシロンに比べれば……』
「!!」
そうだ、僕達はエイリア学園に勝って、それで……!
「あの後、どうなったの!?」
「新たな敵が現れたんだよ。名前はイプシロン」
「ジェミニストームは追放とかどうとかでいなくなるわ、倒したら新しい宇宙人が現れるし……」
僕のその問いに答えたのは一之瀬さんと土門さんだ。
「……つい、ほう」
じゃあ、あの時僕はそれに巻き込まれそうになって、そこを……
『ごめんね、名前ちゃん……嘘付いて』
レーゼに……助けられた……のかな。
でも、あの優しい言葉遣いは……
「大丈夫? 顔色悪いわよ」
「え、そう……かな」
「ええ。もう少し寝ておいた方がいいんじゃない? 監督にもそう言っておくわ」
そうだ、瞳子姉さん!
瞳子姉さんに聞きに行かなくちゃ……!
「瞳子姉さんはどこ?」
「え、わかんな……ちょっと!?」
ベッドから降りようと起き上がり、床に足を着ける。
寝起きだからか、少しふらついたけど大丈夫。
「ふらついてるじゃない! まだ安静にしておかないと……」
「瞳子姉さんを探さなきゃ」
「名前!」
後ろから僕を呼び止める春奈の声を無視して保健室を飛び出す。
……だって、一緒だった。
あの一瞬、確かに感じたんだ……温もりを。
その温もりを僕は知ってる。
あの温もりは___リュウちゃんだ。
2022/2/20
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