参戦! 雪原の皇子
「監督! 作戦は?」
「好きにして良いわよ。吹雪君の実力を見るだけだから」
「分かりました!」
吹雪さんの実力は動画や画像にもないという。
まぁ、白恋中はサッカー部ができたばかりって聞いたし、公式記録がないのは頷ける。
「……でも、噂があったなら小学生部門に出てたって事ないのかなぁ」
もう一度吹雪さんの噂を思い出す。
熊殺しの吹雪、1試合10点を1人で叩きだした、熊よりでかい、ブリザードの吹雪……うーん。熊よりでかいは違う事は分かってるけど、他の3つだよね。
「こればっかりは、実際に見てみないと分からないか」
僕もいろんなサッカーの試合に出させて貰った事があるから、いろんな選手を知っている。
さて、吹雪さんはどんなプレイヤーなのか、楽しみだね。
***
「……あの人、北海道まで着いてきたんだ」
何故かいる実況の人は置いておいて。
鬼道さんの指示で、僕はMFに配置された。
特に意図はないらしい。
というわけで、雷門のキックオフで試合開始。
……なのだが。
「何!? あの野郎、ディフェンスにいる!?」
「吹雪はFWじゃなかったのか!?」
そう。
ストライカーだと聞いていた吹雪さんはDFのポジションにいるのだ。
「FWだよ、吹雪君は」
「じゃあアレはなんだ!?」
「今はDFなんだ」
「どういうことだ!」
今はDFだけど、FWであることは間違いない。
考えられるのは、吹雪さんはリベロか、リベロに近い役割を担っているか、だ。
「ま、実際にどんな動きをするのかは、始まってからのお楽しみってわけね」
古株さんがホイッスルを鳴らす。
漸く試合開始だ。
鬼道さんが染岡さんにボールを渡す。が……
「ふざけてんじゃねぇ、どけぇ!!」
染岡さんは強引に相手選手を抜き去り、一人で敵陣へ突っ込んでいくではないか!
……あーあ、あれは頭に血が上ってるね。僕の時みたいに。
「さ、ゴール前に立ってるけど……吹雪さん、どうやって染岡さんを止める?」
染岡さんは吹雪さんの方へまっすぐ向かって行く。
その様子を吹雪さんはそろそろ見慣れた表情で染岡さんを待ち構えている。
「そういう強引なプレイ、嫌いじゃないよ。___”アイスグランド”!」
向かってくる染岡さんに吹雪さんが必殺技を使った。
その必殺技は、いとも簡単に染岡さんの動きを封じた。
「ふーん……結構やるじゃん」
すみません、吹雪さん。
実は初めの印象は『弱そう』だったんだけど……訂正するよ。
そのディフェンス技……強いね。
でもまだ、吹雪さんはFWとしての姿を見せていない。
あの人の実力は、まだ判明していないものがある。1試合10点を1人で叩きだしたというその実力を……ね。
ボールは一度奪われてしまったが、風丸さんが奪え返し、再び前線にいる染岡さんへ渡った。
思ってはいたけど、白恋中サッカー部は吹雪さん以外はそこまで実力があるようにみえない。だから、吹雪さんが軸となっているサッカー部なんだろう。
守備力が高いのもちょっと頷ける。
「……へぇ、染岡さんのシュートを止める気なんだ」
僕の場合、手を抜いた”ドラゴンクラッシュ”は打ち返せたけど……きっと今回はそんなことをしない。むしろ威力は通常の時より上がってそうだ。なんでかって?今染岡さんイラついてるから、加減のコントロールできないと思うんだよね。
「防げるもんなら、防いでみやがれ! ”ドラゴンクラッシュ”!」
染岡さんは迷う事なく”ドラゴンクラッシュ”を吹雪さんに向けて打ち込んだ。
対する吹雪さんは笑みを崩す事なく、ボールを見つめている。
そして___
「何ッ!?」
必殺技なしで、しかも片足でボールを大人しくさせたのだ。
……打ち返す事はできるけど、吹雪さんのように止める事は僕はできない。まあ実力差がかなりある場合は話が変わってくるけどさ。
でも、自分のシュートを必殺技なしで止められるのはかなり堪える。
後ろ姿だから分からないけど、きっとその表情は怒りに染まっているだろう。
「うおおおおおおおりゃああああああッ!!」
染岡さんは吹雪さんからボールを奪おうと、スライディングで滑り込んできた。
……どう出る?
吹雪さん。
「……出番だよ」
染岡さんが吹雪さんの持つボールへ触れる……と思った瞬間。
「うわあああああッ!!?」
雪の混じった突風が発生し、染岡さんが吹き飛ばされた。
何をしたのか分からないけど……あんなに簡単に染岡さんを弾き飛ばすなんて一体……。
「この程度かよ! 甘っちょろい奴らだ」
風が晴れたと思えば、現れた吹雪さんはどこか雰囲気が変わってた。
……まあ偶にいるよね。何かしらやるときだけ性格変わるって人。
よくある例は車を運転する時って聞くよ。
あ、今この話はどうでもいいか。
「……そろそろかな」
1試合10点を叩きだしたという噂。ブリザードの吹雪の実力を見る事ができるのは。
2021/11/13
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