参戦! 光のストライカー


side.鬼道有人



「まさか打ち返してくるとはな」

「だが意外な事でも無い。苗字は武方三兄弟の必殺技やアフロディのシュートを打ち返している。染岡の必殺技が打ち返されたのは予想外のことではない」

「だけど初めて受けたよ、苗字が打ち返したシュート」


見てくれ!と円堂が自身の掌をこちらへ差し出す。
視界に入ったグローブは摩擦によって黒く焦げていた。


「”マジン・ザ・ハンド”で止めるのが精一杯だった……」

「ならば彼奴の使う必殺技はそれ以上だ」


俺の考えと苗字の考えが同じならば、サッカーを辞めるほどまで自身を追い込んだ必殺技”シャイニングエンジェル”と”ザ・ブラスト”は使ってこない。
使ってくるのは……あの必殺技・・・・・あの必殺技・・・・・の可能性が高い。


「ミーティングは終わった? さっさと試合再開しようよ」


待ちくたびれているのか、苗字はこちらに向かって大きな声で話しかけてきた。
今ボールを持っているのは円堂だ。ボールはこちらからになる。

俺は前線にいる染岡へ駆け寄る。
未だに苗字に対して怒りの感情を露わにしている染岡に向けて口を開いた。


「これは苗字の実力を測る試合だ。勝ち負けはない」

「だけどよ……!!」


苗字の態度が気に入らないのか、染岡は試合に集中できていないようだ。
残念だが、今の雷門の中で苗字に匹敵する実力を持つ者はいない。彼奴だったら並ぶ程の実力があったと思うが……今はいない人物の影を探すのは止めよう。

試合中は余計な事を考えない。そう教わっただろう?


「鬼道!」


円堂からのパスを胸でトラップし、ドリブルで上がっていく。
先を走る染岡へパスを出し、このグラウンドの中で唯一敵サイドである苗字を見た。

その表情は余裕綽々としており、明らかに舐められているのが分かる。俺としては今更ではあるが、染岡は気にしてしまうようだ。
目の前にいる苗字の様子を窺いながらドリブルで上がっていく。


「円堂守、次は必殺技使うから止めてね?」


突然の必殺技を使う宣言に身体が反応する。
……何を使ってくる? 俺が予想している必殺技か?
そう頭を働かせていた時だ。


「考え事? 余裕だね」

「!」


隣から聞こえた声に反射して振り向く。
そこには先程までゴール前…円堂の所にいたはずの苗字が。


「っ、染岡!」

「おっ」


咄嗟に出したパスだったが、上手く繋がった。
染岡はボールを受け取ると、真っ直ぐゴールへ走って行く。……その後を苗字が追う。


「ちっ……!」

「舌打ちなんて酷いなー。僕は純粋にサッカーを楽しんでいるだけなのに」

「その態度が苛つくんだよ……!」

「どうすればその苛つきはなくなる?」

「1点奪って張らせりゃいいけどなッ!」

「へぇ? じゃあ奪ってみせなよ!」


そう言って苗字は染岡からボールを奪った。
まるであえて奪わなかった、と言っても過言ではないほどに鮮やかで自然とした動き。まぁ、彼奴の性格から考えると、俺の考えは合っていそうだ。


「ここから先は通さないぞ!」


奪われたボールを取り返すためか、苗字の前に現れたのは風丸だ。
苗字は一度その場で止まり、風丸と対面する。

雷門の風である風丸と、光と言われた苗字。
速さ勝負ではどちらが上か。


「へぇ? じゃあ止めてみせてよッ!」


苗字は素早いボールさばきで風丸を翻弄し……そして抜き去った。


「くそっ!」

「まだまだだね、風丸さん!」


速さだけなら近寄っている部分がある2人だが、風丸はまだサッカー経験が浅い方だ。それに比べ苗字は雷門サッカー部のほとんどの者よりサッカーを長くやっている。経験値は苗字の方が上なのだ。

遂に苗字はDF陣へと攻め込んだ。
何とか止めようと苗字の前に立つDF陣。それを見て苗字は、その場で立ち止まった。


「円堂さーん、ここから必殺技打つから止めてねー!」

「はぁ!?」

「壁山も使ってきなよ、”ザ・ウォール”」

「えぇっ!?」

「ま、届けばの話だけど」


挑発と言えるその発言に2人は困惑している様子。
そんな2人の様子を知ってか知らずか、苗字は「ほらほら、あと3秒で打つから構えて」と言っている始末。


「じゃあ数えるよー。さーん、にー」


……苗字がカウントダウンを始めた。
その姿は完全に無防備で、どうぞボールを奪ってくださいと言っているようなもの。


「……1」

「何っ?!」


スライディングで突っ込んで来た一之瀬を交わしながら、苗字はボールを高く蹴り上げた。
それを追うように苗字も高くジャンプする。

それはジャンプと表現するよりも、”飛んでいる”と表現した方が正しいように見えるほど、軽やかなものだった。


「聖なる光をくらえ! ”ホーリードライブ”!」


”ホーリードライブ”と呼ばれた必殺技は、輝かしい光を纏いながらゴールに向かって一直線に降下していく。


「”ザ・ウォール”……うわあああああっ!?」


壁山の”ザ・ウォール”をいとも簡単に突破したその必殺技は、威力を殺すことなく円堂の元へ飛んでいく。


「”マジン・ザ・ハンド”……ぐあああああっ!!」


円堂が”マジン・ザ・ハンド”を出した瞬間にボールが直撃。
ボールはゴールへと突き刺さった。


2人ともタイミングはばっちり合っていた……ように見えて、実際は掴めていなかった。
それはなぜか? ……単純な話、”ホーリードライブ”が速いからだ。


「ご、ゴールーーー!! 苗字の必殺技”ホーリードライブ”が雷門ゴールへ突き刺さりましたーーー!! 円堂、その速さに僅かに反応できずーーー!!」


鳴り響くホイッスル。
それはこちらの点数が奪われたという意味だ。


「見えなかった……」

「そりゃ必殺技だもの。簡単に止められたくないし、磨きを掛けているつもりだよ」


円堂の言葉に自慢げに苗字が返答した時だ。


「!」


グラウンドに鳴り響く音。
それは手を叩いたときに鳴る音だ。
その音の発生源の方へと振り返った。


「試合終了! そこまでよ」

「えー! もう終わり? 僕、まだ雷門と遊びたーい!」


瞳子監督から告げられた試合終了の合図に苗字は頬を膨らませる。どうやら不満らしい。


「苗字の実力は確認できた。正式に貴女にはキャラバンに加入して貰うわ」

「えへへっ、やったあ!」


心の底から嬉しい。
その言葉が当てはまるほど苗字は嬉しそうな表情を浮べていた。





2021/09/17


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