参戦! 光のストライカー



翌日


「……! 豪炎寺さんだ」

「苗字か」


兄さんの病室へ向かっていると、大きなクマのぬいぐるみを持って歩く私服姿の豪炎寺さんとエンカウントした。


「何そのぬいぐるみ」

「妹がここに入院しているんだ」

「!そう、妹さんがここに」


初めて知った。
豪炎寺さんの妹がこの病院に入院している事を。


「着いてくるか?」

「うーん、お誘いはありがたいけどやめとくよ。おふたりさんの空間を壊すわけにいかないしね」

「そうか」


僕は妹という立場だけど、気持ちはなんとなく分かるつもりだ。
大好きな家族との時間はやっぱり家族同士で過ごすべきだ。
そう思って豪炎寺さんのお誘いを断った。


「じゃあな苗字。気をつけろよ」

「?うん」


豪炎寺さんの言葉に首を傾げるも返事をした。
まさかこれが豪炎寺さんと会話できるのが最後だったのは、今の僕は知らない。


***


「おはよう、兄さん」

「ああ。おはよう」


病室に入ると、本を読んでいたらしい兄さんが顔を上げてこちらを見て微笑んでいた。


「そういえば豪炎寺君の妹さん、意識が戻ったみたいだね」

「そうなの?」

「あれ、知らなかったのかい?」

「うん。妹さんが入院しているのもさっき知った」


僕がそう言うと、兄さんは苦笑いを浮べていた。
だって豪炎寺さんったら、僕の事ばっかり聞いてきて自分の事話さないんだもん。


「じゃあさっきのクマのぬいぐるみは、お祝い品か何かなのかな」

「クマのぬいぐるみ?」

「さっき豪炎寺さんとすれ違ったんだ」

「なるほど。……あ、突然学校破壊なんて起きたから忘れてたけど、昨日豪炎寺君がここに来たんだ」

「そうなの?」

「うん。名前が教えたんだろ?」

「元々豪炎寺さんが知っていて、僕から聞いて確信したって感じだったよ」


世宇子中試合前の合宿
豪炎寺さんに尋ねられたので教えた。
兄さんが入院している事を知っているのは春奈にも話していない。


「学校崩れちゃって休校になっちゃったし、しばらくは一日中兄さんといられるね!」

「喜ぶ所じゃないと思うけど……。あと、今日は午後から検査が入ってるから面会できるのは午前中だけだよ」

「え……」


「ごめんっ」と兄さんが手を合わせて謝る。
別に兄さんが悪いわけじゃないし、検査の邪魔をしてはいけない。


「残念。じゃあ昼前には帰らなきゃね」

「それまで何をしようか?」

「じゃあ勉強教えてよ!数学で分からない所があって……あっ、あった。ここが分からないから教えて欲しくて」

「おっ、勉強か。ちゃんとやってて偉いぞ」


兄さんから頭を撫でて貰うのは好きだ。
優しくて温かい。顔が緩んでいくのを感じる。


「ちょっと借りるよ。……ふむ、ここは___」


***


「じゃあ帰るよ。また明日ね、兄さん」

「ああ。気をつけて帰るんだよ」


手を振って見送ってくれた兄さんを最後に、病室のドアを閉めた。
最後に学校に寄ってみようかな。何となくそう思った。





2021/02/22


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