対 世宇子中



「おぉ〜。トロフィーを見ると、更に実感わくね〜」


円堂さんが持っているトロフィーに顔を近付け、近くで見る。
トロフィーの表面に映る自分と目が合う。


「持つか?」

「いや、いいよ。他の人に持たせてあげなよ」


円堂さんの言葉にそう言い、隣にいた宍戸の背中を押す。
宍戸と少林寺が興奮した様子で、トロフィーを持ちたい、と円堂さんに言っている光景を見て、少し離れる。


「約束通り、サッカー部に入ってくれるんだろ?」

「……考えるだけのつもりだったんだけど、そうだね」


隣にいた円堂さんと目を合わせる。


「そのうち入部届出すよ」

「絶対だぞ!」


円堂さんの言葉に頷いて反応する。
そして、会場だった世宇子中スタジオを見上げる。

弱かった雷門イレブンが、本当に優勝するなんてね。
最初は優勝なんてできるわけがないと思っていた。だけど、彼らの試合を見ていくうちに、期待している僕がいた。
もしかしたら、僕を拒絶しないんじゃないかって。

秋葉名戸学園との試合で出た時点で分かってたのかも知れない。
このチームは、僕を受け入れてくれるって。


「円堂さん」

「?なんだ?」


こちらを見て不思議そうに首を傾げる円堂さん。
僕は身体ごと円堂さんの方を向く。


「ありがとう」

「へ?」


僕の言葉の意味を分かっていない円堂さんは、気の抜けるような声を出した。


「どういう意味だ?」

「分からなくて良いよ。ただ、お礼が言いたかっただけ」


そう言って背を向けると、「教えてくれよー!」と後ろから円堂さんの声が聞こえる。
もう、僕がお礼を言っているんだから素直に受け取ってよ。

世宇子中との試合を見て、過去に自分が犯した事を思い出した。
だけど、雷門イレブンが勝った事で少しだけその過去から救われた気がした。
だから、今ならあの人を前にしても怯える事は無いだろう。


「苗字〜!お前もバス乗って行けよ!」


スタジアムを見つめていると、後ろから円堂さんが僕を呼んだ。
振り返ると、既に何人かがバスに乗り込んでいた。


「いや、僕はいいよ。優勝したサッカー部のお邪魔になりたくないし」

「何言ってるんだよ。お前はもう___サッカー部だろ?」


ニカッと笑顔を浮かべ、こちらを見る円堂さん。
……まだ、入部届出してないんだけどなぁ。


「……用事があるからいいよ」

「用事?」


円堂さんの言葉に頷き、後ろにあるスタジアムを指さす。


「あそこに用事がある」

「スタジアムに?何か忘れ物でもしたのか?」

「まあ、忘れ物と言えば忘れ物だね」

「なら待つように監督に言ってくるよ」

「だから、別に待たなくても良いって」

「なんだよー、遠慮するなって!」


……そこまでして僕をバスに乗せたいのか、円堂さんは。
そもそも僕は乗り物がダメだからバスに乗りたくない。
それも理由の一つとしてはあげられるといえばあげられるけど、一番の理由はそれじゃない。


「世宇子中のキャプテンに用事がある。長くなるから待たなくて良いよ」

「何故だ」


横から聞こえた声に驚く。
いつの間にか隣に立っていた鬼道さんが、腕を組んでこちらを見ていた。……声が怖い気がする。


「結局はぐらかされたからさ。……僕と似た必殺技を持ってることについて」

「そんなことで?」


首を傾げる円堂さん。
この人は真似されることについて抵抗がないらしい。
僕はどちらかというと抵抗がある方だが、何よりもアフロディさんが使う必殺技についてはどうしても気になってしまう。
だって……


「僕に取っては大問題なの。僕に取って、あの必殺技は……」


兄さんが編み出した必殺技にして、兄さんが使う必殺技とは対になる必殺技なのだから。…真似されるわけがないと思ってたんだ。
別の必殺技だとしても、『似ている』と言うだけでも嫌だった。


「話を聞きに行くだけなんだな」

「!……響木さん」


聞こえた声に反応する。
バスに来ない円堂さんと鬼道さんを呼びに来たんだろう。


「うん。……どうしても知りたいんだ」


響木さんの目を見つめながら、そう言う。


「……分かった。くれぐれも気をつけるように」

「っ監督!」

「鬼道。こいつは何を言っても聞かない。なら、行かせてやればいい」


鬼道さんはどうしても僕をアフロディさんの元へ行かせたくないらしい。
きっと、自分たちと同じ目に遭ってしまったらと思っているのだろう。


「大丈夫だよ、鬼道さん」

「……しかし」

「僕、アフロディさんより強い自信あるから」

「……お前らしいな」


フッと笑った鬼道さん。
響木さんの言葉の意味が分かったらしい。


「じゃあ、また後日!」

「ああ!待ってるからなー!」


円堂さん達に手を振って、発進したバスを見送った。
バスが見えなくなった所で、僕はスタジアムへと足を動かした。





2021/02/21


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