対 世宇子中



「……どこここ」

「イナビカリ修練所だ」


僕の呟きを拾ったのは隣にいる響木さんだ。
現在僕は、学校の七不思議〜とか言われていた場所にいる。
どうやら此処は、あのイナズマイレブンの人達が使っていた『イナビカリ修練所』という場所らしい。


「因みに、御影専農との試合前から使ってるわ」

「……ああ、暫く河川敷のグラウンドで姿を見なかったのは、此処で練習していたからって事ね」


反対側の隣にいた雷門夏未が答えた内容で、僕は言いたい内容が分かってしまったのでそう口に出した。
雷門夏未は頷いて肯定の意思を見せたので、正解だったようだ。


「……“マジン・ザ・ハンド”、ねぇ」


目の前で行われているものを見て、ボソッと口に出す。
壁により掛かって、腕を組んで目の前の光景を見つめる。
僕の視界に映っているのは、自動でボールを発射する機械と対峙している円堂さん。
ほとんどボールを身体にぶつけてばかりで、身になっているとは思えない。


「監督……っ」


見てられないのだろう。
雷門夏未が響木さんの名を呼ぶ。
響木さんは、雷門夏未の言葉に頷いた。


***


「……合宿?」


円堂さんの不思議そうな声が響く。


「ああ。学校に泊まって、皆で飯でも作ってな」

「許可は私が取って置きました」


響木さんの言葉に、円堂さんは再び不思議そうな声を出した。
……まあ、雷門夏未の親が経営者なんだから、すぐに許可は取れるか。


「合宿かー!」

「そういえば俺達、合宿なんてしたことなかったもんなー」

「学校に泊まれるなんて、何か楽しそうでヤンスね〜」


……1年組は嬉しそうだな。僕も1年だけど。
まあ気持ちは分からない事も無い。合宿は楽しいものではないけど、青春って感じで僕も合宿やった時はわくわくしてたもんな〜。
と、思っていると


「待ってください、監督」


低い声が響いた。…その声の主は円堂さんだ。


「飯でも作るって……。そんなのん気な事言ってる場合じゃ……!世宇子との試合は、明後日なんですよ?それまでに、“マジン・ザ・ハンド”を完成させないと……」


……円堂さん、必殺技の事で頭がいっぱいになっているな。


「できるのか?」

「!」

「今の練習で、必殺技を完成させる事が……」

「だ、だから……っ、それはやってみないと……」

「無理だ」

「!! ……無理?」

「“マジン・ザ・ハンド”は、大介さんが血の滲むような努力で創りあげた“幻”の必殺技……。闇雲に練習して完成する程、甘い技じゃない。それに今のお前は、必殺技の事で頭が凝り固まっている。そんな状態で完成させるのは不可能だ」


響木さんの言葉は最もだ。
“マジン・ザ・ハンド”がどんな技なのかは知らないけど、今の円堂さんでは完成させられないだろうな。


「確かに、一度“マジン・ザ・ハンド”の事を忘れて見るのも良いかもしれないな」

「え?」


鬼道さんの言葉に円堂さんが反応する。


「俺も賛成だな。アメリカでも言うしさ、ゴキブリを取る時以外は急ぐなって」

「……ゴキブリ?それって、ノミを取る時以外は急ぐな、じゃなかった?」

「あっ、あぁそうとも言うよね!あっははは……っ」


……あの人、アメリカの人なのかな?
木野さんとも仲よさげだ。…知り合いだろうか。


「それじゃあ、合宿という事で決まりね!」


雷門夏未が手を叩きながらそう言った。


「皆、用意をして5時に集合だ」


響木さんの言葉に返事をし、解散したサッカー部。
僕は出て行くサッカー部を横目で見て、響木さんを見る。


「へ〜、合宿か〜。頑張って〜」

「何を言っているんだ。お前も参加だ」

「……は?」

「お前もだ」

「いや、僕関係な」

「参加だ」

「はい」


……なんで僕も!?
響木さんの圧力攻撃に負け、つい「はい」って答えてしまった。


「じゃあ私、名前が逃げ出さないか見ておきますね!」

「ああ頼む」

「何言ってんの春奈!?」


春奈に引っ張られながら僕はその場を後にした。
……しかも、響木さんに信用されてない!!僕、貴方の店の常連客なのに!!





2021/02/21


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