対 木戸川清修中
side.豪炎寺修也
「あのさ、豪炎寺」
「? なんだ?」
目の前にいる三兄弟の長男、武方勝が俺を見つめる。
「あの日、俺達の“トライアングルZ”を打ち返した奴は……」
「……ああ、彼奴か。彼奴は苗字。苗字名前だ」
「苗字……!?あの、“光のストライカー”の……!?」
俺が口に出した名前に、三兄弟は驚きの声をあげる。
「苗字がいたら、また試合展開が変わっているんだろうな」
「正直、あの生意気な態度は気に入らないですが……」
「あれが苗字なんだよ」
三兄弟の次男、武方友の言葉に俺はそう言い、観客席を見る。
流石にここからでは、苗字を見つけられないか。それに、試合も終わっているし彼奴の事だ。もう帰っただろう。
「きっと、今日も試合を見ていたはずさ」
「?あんな実力を持っていながら、試合に出てないのか?」
三兄弟の三男、武方努が疑問の声を出す。
「……俺達はまだ、彼奴にとって“弱い”んだと」
「やっぱ腹立つなあのガキ」
「お前達も、人の事言えないぞ。まだ苗字さんの方が常識があったように見えたけどな」
「うっ」
こちらにやってきた二階堂監督の言葉に、三兄弟は言葉を詰まらせる。
「二階堂監督。……苗字の事、ご存じだったんですね」
「まあな。あれだけ派手なデビュー戦を見れば、注目せざるを得ない」
「そして、」と、二階堂監督はフィールドに設置されているゴールを見つめる。
「あの試合……。怪我人が何人も続出したその試合での苗字さんのプレーは、『破壊天使』と呼ばれても可笑しくなかった」
「破壊、天使?」
「ああ。……今はサッカー協会が管理しているが、当時の映像が残ってるぞ。ただし、限られた人物しか見れないがな」
二階堂監督の口から出た、苗字の新たな異名。
今まで訊いたことのある異名と比べると、何処か攻撃的な印象を受ける。
「雷門中サッカー部に入ることを躊躇っているのも、もしかしたらその当時の試合の事を引きずっているんだろうな」
「……!」
二階堂監督の口から出たその“試合”というのが、苗字がサッカー界から消えるきっかけになった試合だというのなら。
あの日、千羽山中の試合後に話していた苗字の言葉と一致する。
「……だから」
だから、苗字は俺達が全国1のレベルになるまで入部しない、と言っているのだろうか。
「お前達も、一歩間違えれば怪我させられてたかもな」
「わ、笑い事じゃないです監督!みたいな!」
監督と三兄弟をやりとりを見て、笑みが零れる。
しかし、その言葉は冗談ではないだろう。
『そのいかれた頭、叩きのめしてやる……!』
『勝てるよ。……余裕でね』
『僕は直接怪我させるのは苦手ですから、そんなことできませんよ。できるのは脅しくらいです』
あんな苗字を見るのは初めてだった。
そして、静かに怒っている苗字は、本当に俺の知っている苗字なのかと思ってしまった。
「今度会う機会があったら、“彼女”を怒らせないようにしろよ?」
「はぁ〜い……」
……ん?
二階堂監督と三兄弟の会話に疑問が湧く。
今、監督の口からでた“彼女”とは誰のことだ?
___その答えは、すぐに分かる事になる。
対 木戸川清修中 END
2021/02/21
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