ブラックトリガー争奪戦



「っ!」


公平の攻撃を躱しつつ、飛んでくる弾を避ける。
……だが、その中には明らかに公平が飛ばした弾ではない弾が飛んできている。

戦闘が開始された瞬間、副作用サイドエフェクトを発動しっぱなしであるため、私の視界範囲はいつもの倍だ。
なので、既に公平以外に誰が私を攻撃しているのか分かっている。


「当真のヤツ、いやらしい攻撃してくるじゃん」


その攻撃主は、冬島隊所属の狙撃手スナイパー、『当真 勇』だ。
こいつは私にとって厄介な相手である。
何故ならあいつは私が副作用サイドエフェクトで視界を広げていても、その視界外から射撃してきたのだ。
だけど、当真の存在があって私は副作用サイドエフェクトを使っているからと油断してはいけない、って事を学んだんだよね。悔しいけど。


「私の視界内から逃がさない」


公平の攻撃を躱しつつ、当真に気づかれないように自分の視界外に逃がさないよう距離を縮める。
だけど、あまり迅さん達のほうから離れないようにしないと。
……まぁ私の速さなら離れててもすぐに合流できるけど。


『名前ちゃん、一時退避だ。こっちにきて』

『了解』


トリオン体の標準機能である内部通話で迅さんが話しかけてきた。
どうやら一度引くらしい。


「”メテオラ”!」

「はっ!?」


メテオラを生成し、その場に着弾させる。
公平の視界を錯乱させて、当真の射線に入らない場所を選びながらその場を離れる。
私の場合、副作用サイドエフェクトのお陰で視界が悪くても問題無く移動できる。視界強化だからね。目の前の視界も、自分の見える範囲も強化されるのだ。


「さて、迅さん達はどこかな……っと、いたいた」


少し離れたビルの上。
そこに嵐山隊と迅さんがいる。
近くには風間隊と太刀川さんがいる。2人の狙いは迅さんだろうけど、狙われないように移動しよう。
バッグワームを起動しているからレーダーには映らないし、レーダー越しでは見つからないだろう。



***



「すみません、ちょっと離れ過ぎちゃいました」

「出水だろ? 彼奴、相変わらず名前ちゃんの事好きだよねぇ」


到着すると、迅さんと嵐山隊が私を向かい入れてくれた。


「次も分断してきそうだな〜。さっき名前ちゃんとおれらを分断したようにさ」

「その場合はどうする?」

「別に問題ないよ。何人か嵐山達に担当してもらうだけでも、かなり楽になる。風間さんがそっち行ってくれると嬉しいんだけど、こっち来るだろうな」

「うちの隊を足止めする役なら、多分三輪隊ですね。三輪先輩の鉛弾レッドバレッドがある」


鉛弾レッドバレッド
攻撃力がないかわりにシールドの干渉を受けず貫通する弾で、被弾箇所に重石を付着させるオプショントリガーだ。
前に本人に聞いたらお気に入りだと言っていた。
……聞いた話によると、鉛弾レッドバレッドって上級者向けらしい。銃手ガンナーの才能がなかった私には絶対使えないオプショントリガーである。


「どうせなら分断されたように見せかけて、こっちの陣に誘い込んだ方が良くないですか?」


そう言ったのは、私が脱隊した後に加入した新たなエース……『木虎 藍』ちゃんだ。
こうして対面したのは初めてであるが、彼女の功績は耳にしている。なんたって私の後輩になるんだもの。こっそり活躍を追っていたのだ。本人にはナイショだけどね。


「そうだな。賢と連携して迎え撃とう」


嵐山隊の動きは固まった。
次は私と迅さんである。


「名前ちゃんは事前に話してた通り、おれと一緒に来て貰うよ。さすがにA級攻撃主アタッカー上位と狙撃手スナイパーを1人はキツい」

「よく言いますね。どうせ躱せるクセに」

「嫌だなぁ。おれの副作用サイドエフェクトをよく理解している名前ちゃんだからいてほしいの」


迅さんの副作用サイドエフェクト『未来視』
対象の少し先の『未来』を視ることができる副作用サイドエフェクトだけど、その未来はあくまで”可能性”であって確定されているわけじゃない。
だからたまに読み違えて外してしまうのだ。

そこで半径500m内の『現在』を視ることができる私の副作用サイドエフェクトと、兄さんのサポーターとして培った臨機応変な状況把握力もあって、私と迅さんは相性が良いらしい。

……私はそんな気しないけど。
ちなみに誰が言っていたのかというと、兄さんである。嘘でしょ、兄さん……。
どうやら迅さんにも言ってるらしく、昔はたまにコンビを組まされたこともあったっけ……ってそんなことは今どうでもいい。


「はぁ、分かってますよ。任務なんですし」

「おれは任務じゃなくても一緒にいてほしいけど」

「ちょっと黙ってくれませんか」


私と迅さんの会話に「相変わらずですね」とか「仲が良いな、迅と苗字は」と時枝君と嵐山さんが言っている。
嵐山さん、貴方の視界はどうなってるんですか……。

この人のことはどうでもよくて。
私が話したいのは……


「木虎藍ちゃん、だよね?」

「は、はい!」

「私、貴女と話したかったの。あまり時間とれないと思うけど、また今度改めて会いたいな」


私が嵐山隊に入ったのは、ボーダーの広告活動のため。
だけど母さんの件があって私は嵐山隊を脱隊した。その後は再びS級隊員に戻った。

嵐山隊に入る前も抜けた後もS級隊員だった私の後任は、間違いなく重荷だっただろうし圧もあったはずだ。それでも今エースとして活躍している彼女は素直に尊敬する。


「でも、これだけは今言わせて。……ありがとう」


思わず彼女の手を握ってしまった。
……馴れ馴れしかったかな。


「そ、そんな……! 勿体ないお言葉ですっ」

「名前ちゃん、木虎がショート寸前だよ」

「え、あっ……ごめん。馴れ馴れしかったよね」

「そ、そんなことないです! 気にしてません!!」


なんて気遣いの出来る子なんだ……。私とは大違い。
と、今は戦場なんだからこんな子としている場合じゃないね。


「お喋りはここまで見たいですね」


ずっと発動中だった副作用サイドエフェクトで広げた視界に3人……秀次と公平、米屋君がこちらに近付いてくるのを発見。


「と言うわけで早く行きましょう」

「言われなくても。上手い事やれよ、嵐山」

「そっちもな、迅」


互いに頷きながらアイコンタクトをとり、私と迅さんは嵐山隊とは反対側の方へと移動した。





2022/2/12


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