ブラックトリガー争奪戦

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12月18日
時間帯は夜

日中、本部トップチームが遠征から帰還した。
その夜、警戒区域内に動く集団の影あり。

その影の正体は……本日帰還したトップチームである太刀川隊、冬島隊、風間隊と、三輪隊だ。
この4部隊に共通しているのは、城戸の配下である部隊であること。


そう。
この4部隊は城戸の指示の下、この警戒区域内を移動している。
その目的というのは、玉狛支部に入隊した……正確にはまだ入隊していないが、その新人……近界民ネイバーが持っているブラックトリガーの奪取だ。



「止まれ!!」


先頭を走る太刀川が制止の声をあげる。
何故太刀川が止まれと指示したのか。それは目の前に誰かが立っていたからだ。

その人物は……


「……迅」

「なるほど、そう来るか」


彼らが目指す玉狛支部所属のS級隊員、迅悠一だ。
まるで先に行かせないとでも言うように、太刀川達の前に立ちはだかっていた。


「迅さんじゃん。なんで?」

「よー、当真。冬島さんはどうした」

「うちの隊長は船酔いでダウンしてるよ」

「余計な事を喋るな、当真」


まるでこの状況を分かっていないかのような口ぶり。
だが、彼らの進む道に立っていた。それはつまり、彼らがここに来ることを読んでいたという事。


「こんな所で待ち構えていたって事は、俺たちの目的も分かってるって訳だ」


なので、太刀川達の目的も分かっているという事になる。


「うちの隊員にちょっかい出しに来たんだろ? 最近うちの後輩達が良い感じだから……邪魔しないでほしいんだけど」

「それは無理だ、と言ったら?」

「その場合は……仕方ない。実力派エリートとして、可愛い後輩を守んなきゃいけないな」


それは、目の前にいる4部隊を相手にするという意味だ。



「なんだ迅。いつになくやる気だな」

「おいおいどうなってんだ? 迅さんと戦う流れ?」

「”模擬戦を除くボーダー隊員同士を固く禁ずる”。隊務規定違反で厳罰を受ける覚悟はあるんだろうな? 迅」


隊務規定
ボーダー隊員に課せられた規則だ。
風間が告げたのはその1つである。


「それを言うならうちの後輩だって立派なボーダー隊員だよ。あんたらがやろうとしていることもルール違反だろ、風間さん」

「……チッ」


迅の後輩はすでにボーダー隊員だと告げた。
つまり、彼らがその後輩に攻撃することは規定違反になる、と風間の言葉をそのまま返した。


「立派なボーダー隊員だと!? ふざけるな!! 近界民ネイバーを匿っているだけだろうが!!」

近界民ネイバーを入隊させちゃダメっていうルールはない。正式な手続きで入隊した正真正銘のボーダー隊員だ……誰にも文句は言わせないよ」

「なんだと……?」


近界民ネイバーがボーダーに入った。
その事を匿っているだけ、と声を荒げたのは三輪だ。
彼は誰よりも近界民ネイバーに対し恨みがある。ボーダーに近界民ネイバーが入隊するという事実を認める認めない以前に、近界民ネイバーは悪だと認識してしまっているのだ。


「いや、迅。おまえの後輩はまだ正式な隊員じゃないぞ」


しかし、迅の発言を否定する者が。
それは太刀川だ。


「玉狛での入隊手続きが済んでても、正式入隊日を迎えるまでは本部ではボーダー隊員と認めてない。俺たちにとっておまえの後輩は、1月8日まではただの野良近界民ネイバーだ……仕留めるのになんの問題もないな」

「へぇ……」


その後輩達がボーダーに入隊していることは間違いないのだが、本部で行われる正式入隊日を迎えないと正式な隊員として認められない。
つまり、隊務規定の”模擬戦を除くボーダー隊員同士を固く禁ずる”には含まれないことになる。


「邪魔するな、迅。おまえと争ってもしかたがない。俺たちは任務を続行する。本部と支部のパワーバランスが崩れることは別としても、ブラックトリガーを持った近界民ネイバーが野放しにされている状況は、ボーダーとして見逃すわけにはいかない。城戸指令はどんな手を使ってでも玉狛のブラックトリガーを本部の管理下に置くだろう……玉狛が抵抗しても、遅いか早いかの違いでしかない。大人しく渡した方がお互いの為だ。……それとも、ブラックトリガーの力を使って本部と戦争でもするつもりか」

「城戸さんの事情はいろいろあるだろうが、こっちにだって事情がある。あんた達にとっては単なるブラックトリガーだとしても、持ち主本人にしてみれば、命より大事なものだ」


風間の放った言葉に対し迅が返したその言葉の背景には、数日前にブラックトリガー持ちの近界民ネイバー……空閑遊真から聞いた彼の生い立ちと現状があった。


「……それに、ブラックトリガーを命より大事にしている存在はボーダーにもいる。その子と一緒だ」


迅が語ったその人物は、その場にいる誰もが同じ人物を浮べた。
語った本人の脳裏には、綺麗な金髪を靡かせ緋色の瞳でこちらを見つめる少女が浮かんでいた。


「別に戦争するつもりはないが、大人しく渡すわけにはいかない」

「あくまで抵抗を選ぶか。おまえも当然知ってるだろうが、遠征部隊に選ばれるのはブラックトリガーに対抗できると判断された部隊だけだ。他の連中相手ならともかく、俺たちの部隊を相手に、おまえ1人で勝てるつもりか?」


遠征に選ばれる基準として、”ブラックトリガーに対抗できる”と判断される必要がある。
目の前にいる太刀川隊、冬島隊、風間隊はブラックトリガーに対抗可能と認められている、と言うことになる。


「おれはそこまで自惚れてないよ。遠征部隊の強さはよく知っている。それに加えてA級の三輪隊……おれがブラックトリガーを使ったとしても、良いとこ五分だな」


迅は抵抗を、目の前にいる4部隊を相手にすることを決めた。
しかし、ブラックトリガーを持ってもA級隊員と認められている4部隊を相手に勝利は完全勝利は厳しいようだ。


「___おれ1人だったらの話だけど」

「!! 何ッ!?」


迅がそう言うと同時に足音が聞こえた。
廃棄された民家の屋根の上。そこに誰かがいる。


「___嵐山隊、現着した! 忍田本部長の命により、玉狛支部に加勢する!!」


そこには嵐山、木虎、時枝……嵐山隊がいた。
そして隊長の嵐山が放った言葉は、忍田が玉狛の肩を持ったということでもあった。





2022/2/12


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