ブラックトリガー争奪戦



「ブラックトリガーの奪取、って……どういう事ですか? 玉狛に迅さんが持つ風刃以外のブラックトリガーがあるって事ですか?」

「そう言う事」


と言われても逆に分からなくなる一方だ。
ボーダーには最低でも3つブラックトリガーがある。
1つ目は目の前にいる迅さんが持つブラックトリガー『風刃』、2つ目は月彦が持つ名称不明のブラックトリガー、そして3つ目は私が持つブラックトリガー元い、兄さんだ。


「もしかして隠してたんですか? それなら城戸さんが黙ってる訳ないですよ」

「そうじゃないんだなぁ、これが」


迅さんの言葉に首を傾げる。
どういう事だ?


「実は玉狛に新人が3人入ったんだ」

「よく桐絵が許しましたね」

「ま、支部長ボスの命令だからな」

「なるほど」

「話を戻すけど……その新人の1人がブラックトリガーを持っている」


ブラックトリガー持ちだというその新人が玉狛に入った?
一体どこにそんな人がいたと言うんだ。


「そりゃあ城戸さんがそんな行動に出るのも納得ですよ。だって今まではそれぞれの派閥に1つブラックトリガーがあったのに、玉狛にブラックトリガーが入ればパワーバランスが崩れるんですから」


まあ忍田さんはそこら辺気にしていないのか知らないけど、もし今回の件を知っているというのなら、こちらも玉狛に対しては不利だ。
悔しいけど玉狛には強い隊員が揃っているのが事実。


「あれ。それならなんで忍田さんは迅さんに命令書なんて渡したんだろう。それで、そんな内容を迅さんから聞いてるの?」

「ちゃんと説明するから。一旦落ち着こう」


一旦お茶を飲んで一息着く。
頭がこんがらがってきていたからちょっと落ち着いたかも。


「で、そのブラックトリガーを持っている人はどんな人なんです?」

「そいつの名前が『空閑 遊真』って言うんだけど……近界民ネイバーなんだ」


近界民ネイバー
その単語を聞いて心臓がドクンッと脈打った。

近界民ネイバーがボーダー入る。
一体どういう目的で入ったと言うの?
敵の懐に入って油断したところを打つとか?


「……大丈夫。遊真はボーダーに敵対心があるわけじゃない。まぁ、こちら側が下手な真似をしなければの話だけどね」

「本当ですか?」

「うん。それに遊真と名前ちゃんは……似ている」

「似ている? 何がですか」

「境遇かな。ブラックトリガーに関する所は特に」


迅さんは簡単に話してくれた。
空閑君が持つブラックトリガーについて。


空閑君の持つブラックトリガーは彼の父親が作ったという。
その作った経緯は……息子を助けるため。
彼は塵になった父親を、父親の死を目の前で見たという。

それを聞いた瞬間、彼を近界民ネイバーとして見る事ができなくなってしまった。
だって、似すぎてる。


『ごめんな、名前』

『ぁ……、あぁ……!!』


大好きな人の死を目の前で見て、ブラックトリガーと成り果てた兄の身体が塵となって消えていった光景を目撃してしまった私と。


「こんな事言っておいて、なんか誘導しているようで悪いんだけど……どうかな。協力してもらえないかな」

「……協力も何も、忍田さんからの命令ですから。断れません」

「そっか。……ありがとう、名前ちゃん」


どこか優しげな声に少しだけ心臓が跳ねた。
それを隠すように目を逸らす。


「別に、迅さんのためじゃないです。……でも」

「?」

「この件が片付いたら、その空閑遊真君に会いたいです」


そう私が言うと、迅さんは分かっていたように「勿論」と答えた。





「元々忍田さんは近界民ネイバーに対して恨み云々はないですけど、どうして空閑遊真君の味方になったんでしょう?」

「あ、言い忘れてたんだけど、遊真の親父さんはボーダー創設に関わった人なんだよ」

「めっちゃ重要な人じゃないですか! なんで言い忘れてたんですか!!」

「ごめん、ごめんってば」





2022/2/11


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