小型トリオン兵一斉駆除作戦
「また緊急出勤ですかあーっ」
『悪いな名前。急いで向かってくれ』
「んもー、了解ですっ」
近頃発生している”イレギュラー門”。
本来門は鬼怒田さんが開発した『門誘導システム』によって、警戒区域内に引き寄せられるはずなのだ。
それが今、警戒区域外でも門が開いているのだ。
お陰でここ最近休日がない。
「倒した分、給料弾んでくださいよ!」
『はいはい』
と言うわけで、今日も警戒区域内を移動して過ごした。
基地に戻ると、忍田さんが出迎えてくれた。
「お疲れ様、名前」
「忍田さんも」
忍田さんが出迎えてくれたってことは、何か話すことがあるということだ。
廊下を歩いていると、思っていた通り忍田さんが口を開いた。
「今から門を強制的に塞ぐことになった」
「流石にこれだけ被害が出ていれば、そうするしかないですよ」
「だがそれも、持って48時間だ。その時間で原因を特定できればいいが……」
48時間。
日数で言い直すならば約2日。
2日でなんとかできるとは思えない。
聞いた話だと原因に繋がるものは何も分かっていないという。
「この件は迅が対応している。既に何か掴んでいるようだ」
「……そうですか」
こういう緊急事とかは迅さんが呼ばれる。
だから何となく予想はできていた。
「……何か嫌そうだな」
「そりゃそうですよ。だって聞いちゃったし」
「何をだ?」
「あの人の討伐数。トリオン兵を一人で12体倒してるって聞きました」
「なんだ、そんなことか。名前だって沢山のトリオン兵を倒してるじゃないか」
「私が一人で倒したのはまだ10体です……!」
「そんなに張り合うなんて。まだ嫌いなのか?」
「……嫌いとは一言も言ってません。苦手です、苦手」
ここ最近、迅さんに関して何かと敏感になっている。
……前まではそんなことなかったのに。
前の私は迅さんが何かした、という話題にこんなに食いついていなかったと思う。
……本当にどうしちゃったんだろう、私。
「ま、明日になれば何かしら話は上がってくるだろう。それまで休んでいるんだぞ、名前」
「できれば明日は1日お休みにしてほしいですよ……」
「何もなければ1日中休みにするさ」
「あ、言いましたね。約束ですよ」
途中で忍田さんは自室に戻るため別れ、私も自室へと戻った。
「イレギュラー門のお陰なのかな。基地にいる隊員もいつもより少ない」
私の副作用は目を閉じることで人の気配を感じることができる。
真っ暗な視界に、人がいる場所に点が浮かび上がるイメージだ。
こちらは近いほど点がはっきり見え、遠いほど薄い。
読み取る範囲は目を開けている時より広くない。正確な距離は測ったことがないから分からない。
「今日も疲れた……。強制的に門は塞がれているから、今日はたたき起こされることはなさそう」
部屋に戻り、ベッドに倒れ込む。
ここで眠ってしまいたいけど、まずはシャワーを浴びないと。
ご飯は……まぁ、買いだめしてたパンでいっか。
「今日も頑張ったんだ。兄さん、見てくれた?」
片耳に付けていたブラックトリガー……兄さんを外して手に乗せる。
夜、今日会ったことを兄さんに話す事が日常となっている。
ブラックトリガーを起動後、私にその時の記憶はない。
その理由は、ブラックトリガーに換装している間、私の魂は兄さんの魂と入れ替わっているらしいからだ。
それを知ってから、兄さんはブラックトリガーにいると思うと嬉しくてたまらない。
……でも。
「一方的になっちゃうのは……やっぱり寂しいよ」
兄さんをこんな姿にしてしまったのは私なのに。
自分に『寂しい』とか、『悲しい』とか、そんなこと思う権利なんてないのに。
2021/12/15
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