玉狛支部
気づいた時私は、無意識に片耳に付けているブラックトリガーと白い羽根のイヤリングに触れていた。
「……だから、お礼の言葉が欲しいな」
私も、彼と同じような境遇だった時期があるから、何か力になれることがあるなら、力になりたい。
身体を支えて貰っていた事を思い出し、烏丸君から距離を取った。
「……ありがとう、ございます。名前先輩」
「うんっ」
烏丸君から告げられたお礼の言葉に、子恥ずかしい気分になる。
だけど、嬉しい気持ちは本当で。
……顔、ニヤけてないかな。大丈夫かな。
と、いろいろ考えていると後ろから階段を降りる足音が聞こえた。
「逃げないでよ名前ちゃ……、あれ?お取り込み中だった?」
降りてきたのは、私を追いかけてきたらしい迅さんだ。
私の後ろには迅さん、目の前には烏丸君、というサンド状態。
やばい。烏丸君に指示飛ばされたら逃げ道がなくなる!
そう思い、桐絵がいるであろうリビングへと向かおうとしたとき___
「わっ!?」
「はい、そうです。”お取り込み中”なので邪魔しないでください、迅さん」
___急に烏丸君に引っ張られ、気づけば私は彼の腕の中にいた。
目の前は兄さんの服を着た烏丸君の胸。
初めて見たときから思ってはいたけど、烏丸君は身長が高い。
今の私は烏丸君の肩に顔を乗せている状態で抱きしめられている。……なんで!?
「名前先輩」
「っひ」
耳元に囁かれた声。
その声に反応して、思わず変な声がでてしまった。
その行動は本当に中学生なのか疑うほどだ。
「俺、先輩のこと好きになりました。だから、覚悟しておいてくださいね」
___今の何処に惚れる要素があったの!?
と、とにかくこの格好を見られるのは迅さんでなくとも恥ずかしい!。
「か、烏丸く、」
「『京介』。京介って呼んでください。でないと離しません」
「きょ、京介君……!ほら!言ったよ!言ったから、離して!?」
名前呼びをご所望の彼に名前を呼ぶが、一向に離してもらえない。
くそぅ……悔しいけど迅さんに助けを求めるしかない。
そう思い振り返れば、ニヤニヤといった表情でこちらを見ていた迅さんと目が合う。
この人、この状況を楽しんでるな……!
「名前ちゃん、京介は“呼び捨て”で呼んでほしいんだよ」
「そ、そうなの?」
「はい」
秀次といい、公平といい……。
みんな呼ばれるなら名前のほうが嬉しいのかな。
「……京介」
「!」
「ほら呼んだよ!? だから早く、離して・・・」
なんということでしょう。
烏丸……・京介の腕の力が更に強くなっているではありませんか。
抜け出そうと抵抗するとどんどん強くなっていくし……!
必死になっている私の肩に京介は顔を埋めてきた。
そのお陰でさらに身体が密着する。
「離したくないです」
「えぇ……?」
「今日は玉狛支部に泊まってください。俺も泊まるんで」
「お、良い事言うじゃん京介。おーい!今日名前ちゃんが泊まるって〜」
勝手に話を進めないでください迅さん!!
そう思ってると京介はあっさりと私を解放した。
「じゃあ俺、今から親に泊まること報告しに行くので」
「あ、うん」
ポケットから取りだした携帯を持って京介が去って行く。
……また、迅さんと二人っきりだ。
「んじゃ、リビングに戻る?」
「そうですね。桐絵も待ってるでしょうし」
迅さんの立っている方向にリビングがある。
リビングへと足を向けようと振り返った時、迅さんの顔半分が見えた。
「……!」
気のせいだよね。
___迅さんの顔が悲しそうに見えたのは。
玉狛支部 END
2021/12/15
prev next
戻る